センター長挨拶
センター長 神原 淳
「山の頂きから海の底まで」
三重大学大学院生物資源学研究科附属紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンターは、東紀州地方の森林地帯に位置する附帯施設演習林、伊勢平野の田園・里山地域に位置する附帯施設農場、志摩地方のリアス式海岸地域に位置する附帯施設水産実験所の3附帯施設からなり、これに黒潮が流れ貴重な漁場でもある熊野灘を航行する研究科附属練習船「勢水丸」を加えた全4施設、すなわち、文字通り「山の頂きから海の底まで」のフィールドを網羅する施設連携の基で、多様な生態系が多様な生命を育む紀伊・黒潮生命地域において、自然環境と調和した資源循環型社会の構築と生物資源の持続的利用に関する教育・研究を通じて、生態系と共存する地域の農林水産業の発展に貢献することを目指しています。
科学技術の飛躍的発展によって私たちは驚異的ともいえる生活の利便性を獲得した一方で、混迷を深め閉塞感が重くのしかかっている現代社会の現況は、私たちが大自然の命や環境をあまりにも疎かにしてきた付けが回ってきているのかもしれません。この付けを次世代の人々に残さないためにも、多様な環境が相互依存して成り立っている生態系の知識と自然環境と人類との共生の重要性を、三重大学学生のみなさんのみならず地域の方々にも体系的かつ体験的に理解していただく総合フィールド教育を、フィールドサイエンスセンターを利用した実体験型学習や情報発信を通じて行ってゆくことが重要であると考えます。
「山の頂きから海の底まで」の体系的知識は、三重大学の「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」を統合した「生きる力」を涵養する教育目標に通じるものであり、センターは地域に根ざした教育研究拠点として貢献すべく努力して行きたいと考えております。
センター長より
センター長 平塚 伸
紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター(FSセンター)は,2002年4月に生物資源学部の旧附属3施設を統合して新設され,実質的にはこれに練習船「勢水丸」を加えた4施設から成り,フィールドを中心とした教育,研究および地域貢献をミッションとして活動している組織です。FSセンターでは「山の頂から海の底まで」を標榜しており, 文字通りその守備範囲は山地森林から平野部,沿岸域および海域にわたり,それぞれの施設の立地的特性を生かしながら総合フィールド科学の教育・研究拠点として機能しています。
近年,高等教育における実体験の重要性が指摘され,独法化後の三重大学の教育目標にも「感じる力・考える力・コミュニケーションする力・生きる力の涵養」を掲げているところです。しかし,これらの力の養成には座学のみでは限界があり,FSセンターでの「見て・触って・考える」教育を通じた実体験が必須と考えています。一方,相次ぐ食品偽装や毒物混入事件,食料不足,地球規模での環境破壊や地球温暖化問題等々,人類の生存を脅かす事態が日々進行しています。FSセンターは,これらの教育や社会的諸問題の解決に多大な貢献が可能な組織です。FSセンターのもつ諸機能を有効活用し,こうした教育・研究を通じたセンターの社会的責任を果たすため,スタッフ一同日々努力しています。
第四代FSセンター長
FSセンター長 平塚伸
はじめに
平成20年4月から、前センター長の大原興太郎教授の後任としてセンター長を努めております。
月日の流れるのは早いもので、大学は法人化後6年目に、また、農場・演習林・水産実験所を統合した
FSセンターは、設立後8年目に突入しました。
そもそもFSセンターは、なぜ存在しているのでしょうか?大学設置基準第39条に「医学部には附属
病院を、教員養成学部には附属学校を、それぞれの教育研究に必要な施設として置くものとする」という
項目と並列して、「農学部には農場・演習林を、水産学部には養殖施設・練習船を、それぞれの教育研究に
必要な施設として置くものとする」と規定されているためです。これは、応用系学部の教育・研究には
「本物を見て、触って、考える」という実体験が必須であり、座学には限界があると考えられている
ことに起因しています。この思想は、三重大学の掲げる4つの力、すなわち「感じる力、考える力、
生きる力、コミュニケーション力」を涵養するという教育目標と、まさに一致しています。このように、
FSセンターで得た実体験は、学生が社会に出て専門の道に進めば当然貴重な経験として様々な応用の
場で利用可能となりますが、例え専門外の道に進んだとしても、その経験は社会の様々な場で必ず役立つ
ものと確信しています。
FSセンター設立時に、部門制度を作って研究科(学部)を構成する専攻(学科)の相互乗り入れ・
協力を図り、センターに新たな方向付けをしようとする試みがなされました。作られたのは循環共生
総合科学部門、地域環境総合科学部門、および、食資源総合科学部門の3部門で、循環・地域・環境・
食料をキーワードに教育・研究の推進・総括をしようとする組織です。この理念に基づき、それぞれの
施設で行ってきた専門の実習以外に、3つの附帯施設と練習船を横断的に利用した教育の取り組みとして、
学部1年生の「FSセンター体験演習」と2年生の各専攻毎に行う「FS概論」,「FS実習」,および
大学院博士後期課程学生向けの「特別調査研究」を実施しています。これらは、学生がそれぞれの附帯
施設に赴いて宿泊し、各施設の見学や研究・生産活動を体験するものです。しかし、宿泊人数制限や
施設の老朽化等の問題も生じています。
平成18年、19年にそれぞれ教育基本法と学校教育法が改正され,これらの法律に大学の「社会貢献」が
明記されました。これら法律の改正以前からFSセンターでは、公開講座やスーパーサイエンスハイスクール
(SSH)を実施したり放送大学などにも参画してきましたが、これらに加えてさらに幾つかの社会・
地域貢献活動を実施しています。
昨年の5月、FSセンターは農水省の公募プロジェクト「教育ファームモデル実証地区」に認定され、
現在農場の教職員を中心に活動しています。これは農水省が食育推進を目的に、「自然の恩恵や食に
関わる人々の諸活動への理解を深める」ために行われている事業ですが、我々が具体的に取り組んで
いるのは農場の近くにある小学校の児童に農作業や食味体験をさせて、その教育効果を調査するという
ものです。この取り組みはマスコミにも取り上げられ、幾度となく新聞報道がなされました。
また、この活動に対しては学内でも評価して頂き、昨年〜今年度にわたって「三重大学地域貢献補助費」が
交付され、教育委員会・JA・東海農政局などと連携しながら事業を進めています。FSセンターと
しては、外部資金導入のきっかけとするとともに、食育、地域・社会貢献の一環として、今後も地域住民や
社会人に対する教育活動を続けていこうと考えています。また、本年度より教員免許更新講習が三重大
学に於いてもスタートしますが、FSセンターでもこの一部を担当し、座学では得られない自然を対象
とした実習講習と、食育の担い手育成を視野に入れた座学講習を行います。一方、本年度より理系進学の
女子高校生や高専生を対象とした「フィールドサイエンスツアー」を企画し、それぞれの施設において
教育環境等を肌で感じることのできるツアーを行います。
農場では、農場と農場生産物を地域住民に知ってもらうことを目的に、果物・野菜・加工品等の直販を
行っています。販売日には200人以上の市民参加があり、この催しを楽しみにしているリピーターも
増えてきており、実施ごとに盛況となっています。開催ごとに売り上げも上々です。参加した多くの
市民から「安い・新鮮」との感想が出され、こういった形での社会に対するFSセンターの開放や、
その場で交わされる意見交換による社会人教育も今後続けていこうと思っています。
また、今年4月には松阪牛を大阪・梅田の大丸に販売し、「三重大産松阪牛」として大阪市民から好評を
得ました。また、津市内の酒造業者と連携し、農場産の酒米'弓形穂'(品種登録申請中)を用いた
日本酒の製造・販売も行ないました。これは、FSセンター・プロジェクト推進委員長の久松教授の
指導のもとで実施されたものですが、学生もインターンシップとして参加しており、「三重大学」
という銘柄の日本酒を作って各方面から好評を頂いています。
樹齢200年の人工スギ林を保有する演習林では、量水堰堤、気象観測施設、シカ害防除ネットなど
多くの施設が設置されており、これら施設を利用して県・市との共催による「市民セミナー」や昔風の
方法で木材を搬出する「野猿講習会」などの社会貢献を行ってきました。さらに本年度から、津市の
依託事業として市民向けの「森林・自然アカデミー」を生物資源学研究科の教員が中心となって行います。
また、全国の演習林の間での共同利用・相互乗り入れを目的とした単位互換制度も近々発足します。
水産実験所は教員1名、臨時職員2名という限られたスタッフで切り盛りしていますが、臨海実習を
初めとした6つの実習をこなしています。実験所が本学から111kmと遠いこと、および、離れ小島に
あることから様々な制約がかかりますが、県内水産業の拠点である英虞湾内に位置することは、水産学に
とって大きなメリットとなっています。隣には阪大敷地が広がっており、実験所にない浅瀬や岩礁があり、
実験・実習には好適な条件が揃っています。
新練習船「勢水丸」のお披露目式が、3月に松阪港で行われました。式には衆議院議員の川崎二郎氏や
坂口力氏を初めとする政財界関係者、文科省高等教育局の方々、学長、理事、生物資源学研究科の名誉
教授・現役教員等、多数の参加により盛大に行われました。この財政難の折り、ほぼ要求通りの
新練習船が竣工できたことは、関係者皆様のご尽力の賜物と感謝している次第です。なお、新練習船の
全国共同利用計画の検討が、文科省指導のもとで進められており、また、伊勢湾内の危機管理を含めて>の
共同利用についても検討が進められています。一方、勢水丸の停泊する松阪港陸上基地の改修を、現在
計画中です。
FSセンターの現状についてトピックスを書き綴りましたが、センターに対する社会的ニーズに耳を
傾けながら、座学ではできない実際現場での教育、および、基礎研究の応用・実証というFSセンター
ならではの教育・研究を推進していきたいと考えております。
今後とも皆様のご鞭撻、御協力の程をお願い致します。
第三代FSセンター長 大原興太郎
FSセンター長 大原興太郎
はじめに
少し遅くなりましたが「フィールド研究・年報」第5号をお届けいたします。2006年度は旧3付属施設(農場、演習林、水産実験所)が統合して紀伊黒潮生命地域フィールドサイエンスセンターが創設されてから5年目、三重大学が国立大学法人になって3年目になります。
今年度のイベント的な研究事業としてはFS センター主催国際シンポジウム「モンスーン地帯における持続的農業と地域開発に関するアジアコンソシアム形成のための国際研究集会」が2006年12月14-16日に三重大学国際交流基金助成金を得て開催できたことです(詳しくは後述の資料参照)。
この時に同時に開催したFSセンター5周年記念講演でお話いただいた京都大学地域研究統合情報センター長田中耕司教授の「農学とフィールド研究」はわれわれにとってたいへん示唆的なお話であった。その時教授は「5周年で記念事業を開くのはたいへんめずらしいが...」といったことを話された。実は企画担当者としては学内的にもFSセンターにもっと目をむけてもらうためのもがきに似た思いもあったのである。それだけ学部の大部分の教員にとってFSセンターはなお遠い存在である。
この点では、3年前にいただいた学内COEの共同研究の進展についても3年目に工学部のプロジェクトとの統合を研究担当理事より求められ、われわれ農場をベースとした実証班は研究のフレームを拡大してそれに対処したが、工学部の本体も大型プロジェクト研究としての個別研究部分の連携や統合という点ではまだまだ不十分な実態である。
FSセンター研究部門、循環共生総合科学部門、地域環境総合科学部門、食資源総合科学部門の三部門構成の理念はたいへん魅力的なものであり、また生物資源学(広義の農林水産学)の学問のあり方にもかかわっている。しかし、現実にはようやく循環共生総合科学部門において学内COEのプロジェクトと関連した研究連携が進みつつある段階である。その中で東アジアの四つの機関の農林水産学フィールドとのネットワーク構築をめざす教育研究連携の覚え書きを交わし、毎年研究集会を交代で開くことを目標とするところまで漕ぎつけることができたことはありがたいことであった。食資源総合科学部門については、NPO三重スローライフ協会との連携で共同事業に取り組み、今後の発展可能性を示せた。後は 2007年度には何とか地域環境総合科学部門でも取り組みをすすめたいところである。
また、練習船の代船建造が19-20年事業として認められたことにより、フィールド教育をより融合的に行える条件が整った。複雑すぎるセンターの組織改革の検討も引き続き進め、より機能的で効果を発揮しうるセンターにしていきたいと考えている。(「三重大学フィールド研究・技術年報」5号、巻頭あいさつ2007.4)
年頭のあいさつ
新年おめでとうございます。
異常な寒波襲来があったり、自然に依存する農林水産業にとっては気の抜けない天候が続きますが、皆様には日頃からの当センターの運営にご尽力いただき誠にありがとうございます。
旧3施設がセンター化して早4年の月日が経とうとしています。大学法人化もまもなく3年目に入り、設立理念に沿った評価等も俎上に上ってくる段階です。 練習船を含む施設を利用したフィールド教育はそれなりに仕組まれて成果を上げつつあります。一方、研究については農場を中心として共同研究の進展やシンポジウムなどが立ち上げられたもののまだまだセンターとしての一体となった活動は不十分な段階です。
人事的財政的な環境はますます厳しくなる中で、働きがいのある職場とし、センターの存在意義を高めて広く皆さんに知っていただくには、なおいっそうの工夫と努力が必要ではないかと思っております。そのためにはセンター長はもちろんのこと構成員すべてが自分の役割を自覚し、その職務の中で工夫を重ねてセンターの評価を高める知恵を発揮することが求められます。当大学で現在試行的に行われ、来年度から本格的に実施されるとお聞きしている目標チャレンジ活動などもそうした工夫の一環に位置づけることができます。
現在、これまで不十分であった地域への貢献の方法を具体化し、より機動的に動けるための機構改革の検討も続けております。少し複雑になりすぎた現在の組織を、フィールド研究を普段から行ってみえる人たちの力を借りる形で、また、他機関とも連携する形で効果を上げられるように改組できればと考えております。
皆様方のますますのご健康を祈念するとともにセンターの良い評価がいただけるような新たらしい年にしたいと思っております。
○目標・「自然・生物エネルギーに依存し、環境に配慮したセンター施設と循環型農林漁業の創出」
○本年の重点事項(センターに関係の深いもの)
1)大学学部の状況
・名称変更による大学院大学化−平成18年4月
・大学院附属のFSセンター、教員全員が生物資源学研究科所属
・練習船「勢水丸」の代船建造
・ISO14001(環境認証)の取得
・学内COEの中間評価
2)センター機構改革案の作成−設立理念に沿いながらも現実を見据えた機動的組織に
・企画室を中心とした戦略的施策、特に社会に根ざしたFSセンターの基礎づけ
・フィールド研究・教育に関心ある教員の組織化
・意欲ある退職教職員と地域の技術を持った人々の協力体制
○センター理念・三本柱の再確認
1)フィールドを利用した教育(ミッションオリエンティドサイエンスとしての生物資源学の基本)
2)農学・生物資源学の基本としてのフィールド研究
3)生涯学習時代の社会貢献(地域貢献と国際貢献)−学部選出の亀岡理事との連携
−センターと海外のフィールドサイエンス関連機関との連携協定(カントー大学メコン開発センター、江蘇農林職業技術学院、フィルライス)
−センター各施設の公園化(農林水産業の多面的機能を発揮できる施設に−市民農園、福祉農園、森林浴、自然体験、)
明けましておめでとうございます。
FSセンター長の大原です。
昨年はテロやイラク問題もさりながら、最多の台風上陸、新潟中越地震や年末のスマトラ沖大地震の津波被害など自然の脅威と自然への向き合い方を改めて問 われる年でもありました。
その一方では人々が心のよりどころを失ってきているのではないかと思われるような不幸な社会的事件もありました。さまざまな意味で自然から離れすぎた人 間の、自然との係わり方、向き合い方が問われてきているのではないかとの思いも禁じ得ません。
こうした時こそ、問題の現場を重視するフィールドサイエンスの真価を発揮しなければならないのではないかと思います。昨年末、センターを中心としたプロ ジェクト「化石エネルギーに依存しない人間社会の構築〜その具体化に向けての実証的研究〜」がCOEに選ばれたことは、センターがフィールドサイエンスの 核として機能していく上でもタイムリーでありがたいことでした。
学内を見ると昨年4月からの国立大学法人の下でいろいろと戸惑いもありましたが、新しい大学・学部としてのあり方の模索が続きました。センターにおいて も設置理念に沿ったいくつかの取り組みを始めました。
財政的・人的に制約の多い中で、求められるフィールド教育・研究や社会連携・貢献を果たしていくことは容易なことではありません。従って、より機動的・ 効果的に目標を達成していくには現在の複雑なセンター組織の改変も必要かと考えています。
今年はセンターらしい各施設の連携を強化した横断的な研究プロジェクトあるいは研究会の立ち上げ、自然エネルギーを利用した循環型の農場(施設)形成、 運営組織全般の見直し等が大きな課題になろうかと考えています。
旧に倍する皆様方のご活躍、ご協力をお願い申し上げます。
(2005.1.4)
紀伊黒潮生命地域フィールドサイエンスセンターは2年前に生物資源学部の旧附属3施設を統合して新設されました。まだ必ずしも初代センター長が述べられているような設立目的に沿った機動的な動きができていない状態ですが、この4月からの新しい国立大学法人・三重大学の下でのあり方を問われることになります。
FSセンターは付帯施設としての農場、演習林、水産実験所などがこれまで果たしてきた農林水産技術に関する実習の場や農林水産技術研究の場としての機能に加え、学部理念及び多様な社会的要請に応えて再編された3学科の理念に沿った新たな機能が期待されています。それは、山地森林から沿岸域にある付帯の立地的特性を生かしながら、総合フィールド科学の教育研究拠点として、生物資源生産技術者ならびに環境管理技術者などの人材育成やフィールド科学の諸研究に利用される機能であります。
また、この4月からの国立大学法人・三重大学のミッションは「三重から世界へ:地域 に根ざし世界に誇れる独自性豊かな教育研究成果 を生み出す。〜人と自然の調和・共生の中で〜」とされています。FSセンターは地域圏大学としての三重大学のミッションを率先して実行する組織として期待されているといえます。すなわち、太陽・水・土・農・食・環境といった私たち生きていく上 で不可避のものについての教育研究を通して、自然及び地域の人々との共生を図っていくことです。そして、21世紀においてより重要性が増すと考えられる、育つ過程を大事にする態度や姿勢、自然素材の有効利用や生物資源をより生かした更新エネルギーの利用、生物に学ぶ多様性・多元性の尊重など課題解決の現場であるフィールドを大切にした教育研究を進めていきます。
生物自体がそして生物の組織がそうであるように「生きていく」ためには絶えずエネルギー源を注入し、不要になった老廃物や熱を廃棄しなければなりません。人間の作った組織もまた環境に適応し、古くなった部分を改定し新しい機能を付け加えていかねばなりません。その意味では今まで通りでは行かないピンチは新しいことを始めるチャンスと捉えるべきでしょう。
そのためには何をなすべきでしょうか。単なるトップダウンでは組織機能は十分発揮できるとは思えません。構成員・関係者すべてが大きな方向性を共有し、個々の力を高めながら協働していくことこそが重要だと思います。豊田新学長が示されている目標チャレンジ活動などはそのためのキーワードになってくると思われます。組織としても個人としても、目標に基づいて計画し、実行してみて、結果を評価・診断し、改善行動につなげていくPlan-Do-Check-Actionのマネージメントサイクルを作り上げていくことが要請されます。
私としましては、まだはっきりとはみえない法人化の新しい状況を踏まえて、生物資源学部のあり方と密接な関係を持つセンターの存立と活性化を図るために、多くの人たちの能力が発揮される条件整備、枠組みづくりのために力を尽くす所存です。皆さん、私たちの社会的ミッションを果たすために一緒に力を尽くしましょう。
大原興太郎 平成16年5月)
紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター発足にあたって
初代FSセンター長 久能 均
平成14年4月1日付けで、生物資源学部に紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンターが発足した。これまで生物資源学部には、学部の実習教育を主要任務とする附属農場、演習林、水産実験所および練習船'勢水丸'があったが、これら附属施設を学部教育のみならず、大学院や地域の方々の現場教育や研究の場として幅広く活用するために、農場、演習林および水産実験所を統合してフィールドセンターとして発足したものである。したがって、現在では生物資源学部は、フィールドセンターと練習船の2つの附属施設をもっていることになる。
生物資源学部の教育・研究理念は、山間地から河川流域、海岸域、さらに海洋までの生物資源や環境を保全しながら、人間活動を共存させるための方策を教育・研究することにある。紀伊半島の沿岸部の人口密度は多少高いが、幸いにも、全体的にみると豊かな自然が多く残っており、しかも海岸線が長いために、山から海までの地域に展開する多種多様な生命現象を教育・研究する場として半島全体が格好のフィールドとなっている。また、紀伊半島の自然や人間の居住地域は半島南岸を流れる黒潮によって大きな影響を受けている。フィールドセンターは練習船'勢水丸'と協調して、これらの広範な地域に息づく生命の営みを研究し、その成果を学生教育や地域の人間生活に活かし、生態系の保全と我々の生活や生産活動と両立させるための方策を考えることを第一の活動目的としている。
従来の附属施設は学部教育施設として位置付けられていたために、他の学部や地域の方々がなかなか入り込めない状態にあったことは否めない。今や、大学は教育・研究機関であるとともに地域的、国際的な社会貢献を強く求められる場になっている。したがって、フィールドセンターは県や市などと連携して、高齢化社会の生涯教育、児童・生徒の体験教育を目指した公開講座や地域の方々の見学などを積極的に推進するとともに、センター活動の成果をインターネットや出版物を通して地域の方々に広く利用して頂くことを考えている。また、大学内の附属小中学校の児童・生徒や他学部の教官・学生にも自然体験や現場の教育・研究のために学内利用も大いに進めていきたいと願っている。
発足したばかりで運営方針や体制などに不備が多いが、地域社会に密着したセンターとして発展するために学内や地域の方々の積極的なアドバイスをお 願いする次第である。