-樹木の根系に生息する菌類(菌根菌)- |
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外生菌根はどんな形態?
菌糸が根の細胞の中に侵入していないタイプの菌根を外生菌根(ectomycorrhiza)といい,外生菌根を形成する菌類のことを外生菌根菌といいます。また外生菌根には共通する2つの特徴的な構造が必ず存在します。
まず1つめの構造は,根端を刀の鞘のようにすっぽりとおおった菌糸の組織で,菌鞘(fungal sheath または mantle)
とよばれます。2つめは,根の中に侵入した菌糸が,皮層細胞をつつみこむように発達した構造で,ハルティッヒネット(Hartig net)といいます。根の細胞の中に菌糸が侵入することは通常ありません。 これらの共通の構造とは別に,個々の外生菌根で異なる構造もあります。いわば人間一人一人の姿形に特徴があるように,
外生菌根にもさまざまな特徴があります。同じ樹種に形成された外生菌根でも,菌の種類が異なれば,
色も形も構造も変わってきます。この様々な形態的特徴は,菌種のわからない外生菌根を区別するのに用いられています。
つまり外生菌根の色(白,黒,茶色etc…)や形(棍棒型,2叉分枝型,羽状型etc…),菌鞘の表面組織,
菌糸束の構造などを詳細に区別することで,菌の種類を記載するのと同じくらい厳密な区別ができます。
外生菌根の役目は?
植物と外生菌根との関係は多く研究されていますが,ここでは一部を紹介します。まず外生菌根から土壌中に伸びた
「菌糸によって養分(特にリン酸)が吸収され,植物に運ばれます。菌糸によって養分が吸収できるということは,
吸収面積が飛躍的に増えることを意味します。外生菌根から無数に伸びる菌糸は,数10cm〜数mになるため,
吸収できる土壌の範囲が大きく広がります。さらに菌糸は根毛よりもはるかに細いため,根が侵入できないような
土壌中の小さな隙間にも入っていくことができます。また菌鞘がすっぽりと根端を覆ってしまうことによって,
土壌病原菌が植物の細胞内に侵入することを物理的に防いでいるとも言われています。この土壌病原菌に対する防御作用は,
芽生えの生存などに大きく関わってくると考えられています。
森林生態系の中で外生菌根は?
実際の森林では,土壌中で1つのコロニーを形成している外生菌根菌に,多数の樹木が共生しています。つまり,
外生菌根菌の菌糸のネットワークで,木と木が結ばれているのです!前にも述べたように外生菌根菌は,林冠でさかんに
光合成を行う林冠木から炭水化物をもらっていて,土壌中に菌糸を張りめぐらせています。この菌糸によって
土壌中のリンや窒素といった養分が効率よく吸収され,樹木に供給されます。通常,土壌中の菌糸は複数の樹木をつないでおり,
栄養のやり取りが行われています。我々の目に見えない地下で,樹木と樹木が菌根菌でつながっていて,
互いに助け合ったり,競い合ったりしているのです。とても興味深いですね!
参考文献 奈良一秀(1998)さまざまな菌根菌「ブナ林をはぐくむ菌類」(金子 繁・佐橋憲生 編), 文一総合出版, 東京, 114-149.