セルラーゼファミリーとは

 セルラーゼでは、基質特異性と生成産物を基本としたセルロース分解様式による分類が行われ、エンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)とエキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ)(EC 3.2.1.91)に大きくわけられていました(セロビオヒドロラーゼは、現在、非還元末端側から切断するEC 3.2.1.91と還元末端側から切断するEC 3.2.1.176に分けられています)。1980年代の後半、セルラーゼ遺伝子の塩基配列の情報が蓄積するにつれて、推定されるアミノ酸配列を比較するという手法による酵素の分類が検討されて、これまでの基質や反応様式による分類とは異なり、どれくらいアミノ酸配列が似ているかによる分類が行われるようになりました。アミノ酸配列の類似性は、それらのタンパク質の3次元構造の類似性を示すものです。当初、比較的相同性の高いものどうしがグループとして分類されていましたが、疎水性クラスター分析(HCA)を導入したHenrissatらにより、セルラーゼはAからFまでのファミリーに分類されました[1]。疎水性クラスター分析とは、タンパク質のアミノ酸配列をプロリン、グリシンといった構造を作らないアミノ酸で区切り、その間の疎水性のアミノ酸の分布をみることにより、その領域が大まかにαへリックスなのか、βシートなのか、を想定しながら疎水性アミノ酸の分布(クラスター)を相互に比較する方法で、アミノ酸そのものよりも、そのアミノ酸の性格が重要になります。その後、このファミリーはLまで命名がすすみました(つまり12ファミリーあったということです)。一方で、こういったアミノ酸配列の類似性に基づく酵素蛋白質の分類は、これまでの基質による酵素分類とは異なり、比較検討がしやすいためにその範囲を急速に拡大し、糖質加水分解酵素全体におよび「糖質加水分解酵素ファミリー」としてまとめられました[2-4]。セルラーゼ関連のファミリーは、そのなかのファミリーの一員として新たに数字で表すファミリー名をつけられました。旧セルラーゼファミリーAは、糖質加水分解酵素ファミリー5(Glycoside Hydrolase family 5、GH5)、といったように、それぞれのアルファベットのファミリーに、新たに数字のファミリーが割り当てられています。こうしたアミノ酸配列の相同性による分類は、まったく酵素の基質特異性を考慮していません。したがって、ファミリー5には、エンドグルカナーゼの他に、キシラナーゼ、マンナナーゼ、セロビオヒドロラーゼなどが含まれています。さらに酵素の立体構造の解明が進み、タンパク質の構造をもとにした分類、クラン(clan)が、ファミリーの上位の分類として生まれました。例えば、ファミリー5とファミリー10は同様なTIMバレル構造をもつことから、クランGH-Aに属しています。つまり、GHークランーファミリーという分類階層構造になっており、糖質加水分解酵素ーどういう基本立体構造ーどういったアミノ酸配列という階層分類が行われています。こういったファミリーが視覚的にわかるようにセルラーゼ業界では、その遺伝子名を決めるときに、そのファミリー名を遺伝子名に入れようという提案がされ、定着しつつあります[5]。cel5Axyn11Bといった遺伝子名は、それぞれ、ファミリー5のセルラーゼ、ファミリー11のキシラナーゼを示しています。また、セルラーゼ遺伝子にも、いろいろな名付け方があり混乱しているので、できればセルラーゼについては、celに、キシラナーゼにはついては、xynを使うように提案されています。現在、たくさんのセルラーゼの配列がデータベース上にあり、それぞれファミリーに分類されています。微生物ゲノムによる圧倒的な遺伝子情報のなかで、これらの配列は増えつづけており、論文などを書く時は、要チェックです。
 最新のセルラーゼファミリーについてはフランスのCNRSに情報があるので、そこで確認することをお勧めします。このデータベースを管理するDr. Henrissatよりリンクすることを許可いただいたので、ここをクリックすると糖質関連酵素ファミリーのページにつながります。なおセルラーゼは、ファミリー5、6、7、8、9、10、12、44、45、48、51、74、124 に属しています。これらのセルラーゼの構造が解かれ、どうのようにセルロースが分解されるかというメカニズムまで詳細に検討されています。そのなかで、ファミリー44は、日本で最初に構造が決定されたセルラーゼファミリーです[6]。
なお、GH61すなわち、ファミリー61については、その立体構造が解かれましたが[7]、他の糖質加水分解酵素で見られるような一般酸塩基触媒に相当するアミノ酸残基が見当たらないこともあり、加水分解酵素かどうかが疑われました。現在では、ファミリー61の酵素は、銅依存性の多糖モノオキシゲナーゼという酸化酵素であるこが判明し、加水分解酵素ではないということになりました[8]。この酸化酵素は、AAファミリー(Auxiliary Activities Family)
としてまとめられ、GH61は、AAファミリー9のLPMO(Lytic Polysaccharide Monooxygenase)とされています。ちなみにCBM33は、AAファミリー10のLPMOとされています。

(1) Henrissat, B., et al., Cellulase families revealed by hydrophobic cluster analysis. Gene, 81, 83-95 (1989).
(2) Henrissat, B., A classification of glycosyl hydrolases based on amino acid sequence similarities. Biochem. J., 280, 309-316 (1991).
(3) Henrissat, B., and A. Bairoch, New families in the classification of glycosyl hydrolases based on amino acid sequence similarities. Biochem. J., 293, 781-788 (1993).
(4) Henrissat, B., and A. Bairoch, Updating the sequence-based classification of glycosyl hydrolases. Biochem. J., 316, 695-696 (1996).
(5) Henrissat, B., T. T. Teeri, and R. A. J. Warren, A scheme for designating enzymes that hydrolyse the polysaccharides in the cell walls of plants. FEBS Lett., 425, 352-354 (1998).
(6) Kitago, Y., et al., Crystal structure of Cel44A, GH family 44 endoglucanase from Clostridium thermocellum. J. Biol. Chem., 282: 35703-35711(2007).
(7) Karkehabadi, S., et al., The first structure of a glycoside hydrolase family 61 member, Cel61B from Hypocrea jecorina, at 1.6A resoluction. J. Mol. Biol. 383: 144-154 (2008).
(8) Quinlan, R. J., et al., Insights into the oxidative degradation of cellulose by a copper metalloenzyme that exploits biomass components. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 108: 15079-15084 (2011).

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