モジュール構造とは

 セルラーゼ遺伝子の塩基配列決定から推定されたアミノ酸配列の比較とその後の立体構造の解析などから、セルラーゼは、触媒活性のあるドメイン(Catalytic module)と、複数の他の機能ドメインからできている明らかになってきました。機能ドメインの代表としては、セルロース結合ドメイン(CBD)があげられます。最近は、セルロース結合モジュール(CBM)と呼んでいます。セルロースは水に対して不溶性であるために、酵素にとって基質に結合できるという特性は重要であります。すなわちCBMには、酵素をセルロース表面へ結合させることにより、触媒ドメインにとっての基質濃度を高める効果があると思われます。CBMの他にも細胞表層類似ドメイン(SLH)のように酵素を細胞の表面に固定させているドメインがあります。これは、細菌の分泌する菌体外酵素を培地中へ拡散するのをふせぎ、酵素の分解作用を菌体から近いところ(菌体表面)で行うことによって、酵素反応で生じた分解産物を迅速に取り込み、利用することを可能にしています。またCBMとSLHの両方をもつ酵素の場合、菌体そのものをセルロースに結合させる効果をもつと考えられます。これらのほかにセルロソームのドックリンドメイン(Doc)、キチナーゼなどでもみつかっているフィブロネクチンタイプ3ドメイン(Fn3)、GH9によく見られる免疫グロブリン様ドメイン(Ig-like)もこういったモジュールのひとつと考えられています。さらに、ゲノムの塩基配列の決定などから、機能不明なドメインが数多く存在していることもわかってきました。これらのうちいくつかは基質結合に機能するのではないかと考えられています。このように複数の機能ドメインから構成されている酵素を「モジュラー酵素」と呼んでいます。モジュール(module)とは「機械などの機能単位としての部品集合、規格化された構成単位」という意味で、「モジュラー酵素」とは、機能的な部品から構成されている酵素と考えることができます。セルラーゼは、このように触媒ドメインだけでなく、複数の機能ドメインを獲得することにより、セルロースを効率的に分解できるように進化したと考えられています(ドメインシャッフリングが起きた?)。現在も機能不明なドメインがまだ数多く存在しており、セルロースやキシランへの結合だけでなく別の機能をもったモジュール(ドメイン)がこれからも出てくる可能性があります。
 最近のゲノム解析の結果、膨大なデータがデータベース上に登場するようになってきて、時折ミスアノテーションをみかけます。とくにセルラーゼホモローグと書かれている場合、こういった触媒以外のドメインでヒットしたものが入っている場合がありますので注意が必要です。

 また、酵素の機能ドメインについて、「モジュール」という読み方をしているは、この業界の慣例です。「モジュール」は、蛋白質において、エキソンユニットとしても用いられている言葉で、混同しやすいので、注意が必要です。元名古屋大学の郷先生は次ぎのようにモジュールを定義しています。
モジュール:モジュールとは蛋白質の立体構造から決まる構造単位で、平均15残基ほどの連続したアミノ酸残基がつくるコンパクトなコンフォメーションをもち、しばしば機能の単位でもある。水溶性蛋白質は球状ドメインからできているが、ドメインは数個〜10数個のモジュールに分割できる。蛋白質をコードする遺伝子上のイントロンの多くは、モジュール境界によく対応している。イントロンは、エキソンをシャッフルさせたと考えられることから、モジュールは進化の単位でもあるとみなせる。(略)「遺伝子の構造生物学」(共立出版)より。
 実際には、TIMバレルの触媒(モジュール)もさらに小さな「モジュール」からできているのですが、セルラーゼの業界では、個々のドメインを「モジュール」と呼んでいますので、ぜひ、両者の「モジュール」を混同しないようにお願いいたします。

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