直線上に配置

セルラーゼ関連論文の紹介(最終更新 2003.2.17)
最近アメリカのほうからも見ているとメイルをいただき感動しています。もっと、もっと充実をせねばならないと思うこのごろです。ただ、論文の読むのは私ですので、全てを網羅するわけにもいきませんし、私の趣味、興味が深く関わっていることは、申し訳ありません。忙しい時に限って論文を読みたくなる。これってひょっとしたら現実逃避かも。

Properties of cellulose-binding modeles in endoglucanase F from Fibrobacter succinogenes S85 by means of surface plasmon resonance
Mitsumori, M., et al., FEMS Microbiol. Lett., 214: 277-281 (2002)

Characterization of a cellulase containing a family 30 carbohydrate-binding module (CBM) derived from Clostridium thermocellum CelJ: importance of the CBM to cellulose hydrolysis.
Arai, T., et al., J. Bacteriol., 185: 504-512 (2003)

2つともCBMファミリー30についての特性を明らかにした論文です。三森先生のところは、ビアコアを、荒井さんのところは、ITCを使っています。CBMの糖との相互作用をいろんな装置で見れるようになってきました。

Demension, shape, and confomational flexibility of a two domain fungal cellulase in solution probed by small angle X-ray scattering
Receveur, V., et al., J. Biol. Chem., 277: 40887-40892 (2002)

触媒ドメインとCBM、そしてその間をつなぐリンカー、このリンカーの役割についてもいろいろ言われています。この論文では、実際の酵素におけるCBMと触媒の距離が測定されています。リンカーの意味にせまる論文です。

Characterization of the cellulolytic complex (cellulosome) of Clostridium acetobutylicum
Sabathe, F., et al., FEMS Microbiol. Lett., 217: 15-22 (2002)

ゲノム配列で明らかになったセルロソームの生化学的な裏付けです。

Transcript analyasis of genes encoding a family 61 endoglucanase and a putative membrane-anchored family 9 glycosyl hydrolase from Phanerochaetae chrysosporium.
Wymelenberg, A. V. , et al., Appl. Environ. Microbiol., 68: 5765-5768 (2002)

白色腐朽菌Phanerochaetaeのファミリー61とファミリー9のエンドグルカナーゼのクローニングなんですが、これまで、植物と細菌が主だったファミリー9に、ぼちぼち糸状菌のものが見つかるようになってきましたという感じでしょうか。

Promiscuity in ligand-binding: the three-dimensional structure of a Piromyces carbohydrate-binding module, CBM29-2, in complex with cello- and mannohexaose.
Charnock, S. J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 99: 14077-14082 (2002)

ファミリー29のCBMの構造です。このCBMは、セルロース、マンナン、グルコマンナンに結合します。セルロースとキシランに結合するCBMは多いですが、マンナンとセルロースをどうやって結合するのかというところです。ちなみに、このCBM29をもつ蛋白質NCP1(non-catalytic protein 1)は、3つのドックリンと2つのCBMをもった蛋白質です。

The fibronectin type3- like repeat from the Clostridium thermocellum cellobiohydrolase CbhA promotes hydrolysis of cellulose by modifying its surface.
Kataeva, I. A., et al., Appl. Environ. Microbiol., 68: 4292-4300 (2002).

フィブロネクチンタイプ3配列(Fn3)といものが、キチナーゼで見つかって(新潟大学の渡辺先生のところのお仕事)、いろいろ調べてみるとCellulomonasをはじめ、結構セルラーゼにもあることがわかってから、ずいぶんとたちます。しかしながら、その機能については、リンカーの一種ではないかとか、いやCBMのひとつだとか、諸説があるかと思います。すでに立体構造も解かれていたと思います。この論文では、Fn3が、セルロースに作用しているという結論を報告しています。とするとキチナーゼでは、キチンの構造の緩和にFn3が効いているのでしょうか?

Carbohydrate-binding modules recognize fine substructures of cellulose.
McLean, B. W. et al., J. Biol. Chem., 277: 50245-50254 (2002).

結合モジュールにいろいろなファミリーがあるのは、このページの読者の方ならわかっていると思います。これまでにも、ひとつのファミリーのCBMを飽和するまでセルロースに結合させて、別のファミリーのCBMを加えると新たに結合するという実験がいくつか報告があります。このことから考えると異なるファミリーのCBMは、セルロース表面の異なる場所を認識しているのではないかと思われていました。もちろん競合する場合もあります。この論文では蛍光ラベルしたCBMをつかってこれらを検討しています。こういったCBMの結合性を利用して、逆にセルロースの微細な構造について迫ろうということだと思います。CBMのファミリーは、触媒モジュールよりも多い可能性があります。そうなってくると触媒を実際のセルロースのどういったところへ運ぶのが有効なのかという進化のなかのモジュールの組み合わせというものが、意味のあるもののような気がしてくるのです。

A novel comibination of two classic catalytic schemes.
Shaw, A. et al., J. Mol. Biol., 320: 303-309 (2002).

セルラーゼの活性中心は、いわゆるリゾチームのような2つのカルボキシル基による「一般酸塩基触媒」であることが知られています。この論文では、アルカリ性バチルスのGH5のセルラーゼの構造から、プロトンドナーのグルタミン酸が、セリン−ヒスチジン−グルタミン酸と触媒のトライアッドを形成していると述べています。反応機構について興味のあるかたは読んでみてください。

Differential oligosaccharide recognition by evolutionarily-related β-1,4 and β-1,3 glucan-biding modules.
Boraston, A. B., et al., J. Mol. Biol., 319: 1143-1156 (2002)

ファミリー4のCBMは、糖の結合するところがクレフトにやっており結晶性の糖よりも可溶性の糖に結合しやすいことが知られています。いっぽう、セルロースだけでなく、キシランをはじめ、同じファミリーのCBMですが、いろいろな糖に特異性をもつことが知られています。この論文は、そのなぞに迫ろうというものです。Cellulomonas fimiのCel9BのセルラーゼのCBM、これはセルロース鎖を認識して結合します。一方、Thermotoga maritimaのLam16AのラミナリアーゼのCBM、これは、ラミナリン鎖、すなわちβ-1,3-グルコース鎖を特異的に認識しています。同じ、ファミリーということで、アミノ酸配列は似ていて、立体構造の基本構造も同じです。では、どのようなところで微妙な糖鎖の違いを認識しているのか。それは読んでのお楽しみに。

The crystal structure and catalytic mechanism of cellobiohydrolase CelS, the major enzymatic component of the Clostridium thermocellum cellulosome.
Guimaraes, B. G. et al., J. Mol. Biol., 320: 587-596 (2002).

セルロソームにおけるファミリー48の重要性についてはいうまでもありません。ファミリー48の構造としては、すでにClostridium cellulolyticumで解かれています。今回の論文では、ファミリー8との類似性についても考察がされ、新しいクランが提案されています。すでに、CAZyのほうでは、ファミリー8と48は、クランGH-Mになっていました。

A model explaining declining rate in hydrolysis of lignocellulose substrates with cellobiohydrolase I (cel7A) and endoglucanase I (cel7B) of Trichodrema reesei.
Eriksson, T. et al., Appl. Biochem. Biotechnol., 101: 41-60 (2002).

endo-exoの相乗効果について、こういう考え方もありかなと思いますが、細菌の酵素でも同じ様な感じがありますので、結構おもしろですね。

A novel family 8 xylanase: functional and physico-chemial characterization.
Collins, T., et al., J. Biol. Chem. [epub-Jun27, 2002]

まだ、epubですが、ファミリー8キシラナーゼの登場です。

An intron-containing glycoside hydrolase family 9 cellulase gene encodes the dominant 90 kDa component of the cellulosome of the anaerobic fungus Piromyces sp. strain E2.
Steenbakkers, P. J., et al., Biochem. J., 365: 193-204 (2002).

これまで、嫌気性糸状菌のセルラーゼは、ファミリー5が中心で、どういうわけかこれがイントロンレスなんです。そこで、これらの糸状菌へは、細菌から遺伝子が移ったんだと勝手に思っていたのですが、今回、ファミリー9のイントロンのあるセルラーゼがクローニングされました。とくに面白いのは、CBMの存在とやはりファミリー9という、あまりカビにはないファミリーのセルラーゼだということです。それにしても、この嫌気性糸状菌(ツボカビ類)というのは、セルラーゼ系をみても普通でないのが楽しいです。

Cloning and relational analysis of 15 novel fungal endoglucanases from family 12 glycosyl hydrolase.
Geodegebuur F., et al., Curr. Genet. 41: 89-98 (2002).

ファミリー12のセルラーゼをクローニングしたい方にもっていこいのプライマー配列が出ています。PCRでクローニングする時代です。のんびりとゲノムのライブラリーを作っている場合ではないのかもしれませんが・・・・

Structure-function relationships of β-D-glucan endo- and exohydrolases from higher plants.
Hrmova, M., and G. B. Fincher., Plant Mol. Biol., 47: 73-91 (2001)

植物もセルラーゼ系をもちろんもっています。個人的には、微生物がセルラーゼをもっていたというより、植物が生まれてから微生物がセルラーゼを獲得したと思っています。少し違った視点でみることも重要で、微生物とは異なり、通常のβ-グルコシダーゼではない、β-1,4-グルカングルコノヒドロラーゼ(EC 3.2.1.74)の存在が特徴的ではあります。

A census of carbohydrate-active enzymes in the genome of Arabidopsis thaliana.
Henrissat, B. et al., Plant Mol. Biol., 47: 55-72 (2001)

当初、植物からのクローニングされるセルラーゼはファミリー9のもので、触媒ドメイン単独のものでした。ゲノムが終わってみると植物の酵素にもモジュラーな構造があることがわかりました。アラビのキシラナーゼのN末にはCBM22が4つもつながっていました。CBM22は、我々が報告したClostridium josuiのXyn10Aにも二つ並んでいました。どうやら、ファミリー10の触媒と仲がよさそうです。もともとCBM22は、除くと酵素の耐熱性が落ちることから、「熱安定化ドメイン」と呼ばれていたものです。アラビのなかでは、耐熱性はあまり重要ではありません。現在はキシランに結合することが知られています。思っていたよりたくさんのセルロース分解系の酵素を植物はもっていることを認識しました。

Do cellulose binding domains increase substrate accessability?
Esteghlalian, A. R. et al., Appl. Biochem. Biotechnol., 91-93: 575-592 (2001)

タイトルにひかれましたが、その答えはどうでしょうか? 個人的には、「だから?」という感じでしたが、読んでのお楽しみです。過去50年くらいの歴史が書かれてあり、C1-Cx仮説からの概念のながれが表になってたりします。

Chi18A, the endochitinase in the cellulosome of the thermophilic, cellulolytic bacterium Clostridium thermocellum.
Zverlov, V. V. et al. Appl. Environ. Microbiol.,68: 3176-3179 (2002)

セルロソームのなかにキチナーゼがひとつ入っているという論文です。これまでにもセルロソームは、セルラーゼだけでなく、いろんな植物細胞壁多糖類を分解する酵素が集合していることが示されてきました。我々も先に、α−ガラクトシダーゼの存在を報告しました。今回、キチナーゼがみつかったことは、どう理解したらよいのでしょうか。植物の細胞壁にN−アセチルグルコサミンを含んだ構造があるのか、あるいは、先にカビが侵入したような基質を分解するときに、キチナーゼで、ついでにカビの菌糸まで分解してしまおうという魂胆なのか、おもしろいですね。セルロソームに、なぜキチナーゼが必要なのか不思議です。

Imaging the enzymatic digestion of bacterial cellulose ribbons reveals the endo character of the cellobiohydrolase Cel6A from Humicola insolens and its mode of synergy with cellobiohydrolase Cel7A.
Boisset, C. et al. Appl. Environ. Microbiol., 66: 1444-1452 (2000)

少し前の論文ですが、こうやってセルロースの分解が目で見えるのは楽しいですね。このような研究は、京都大学の杉山先生のところが先駆的です。ファミリー6とファミリー7のセロビオヒドロラーゼですが、ファミリー6は、非還元末端から、7は還元末端からセロビオースを切り取りながら進む「プロセッシブ」型の酵素です。当初、セロビオヒドロラーゼ−セロビオヒドロラーゼ間の相乗作用は、この方向性にあるのではないかと思われていました。この論文では、ファミリー6は「エンド−プロセッシブ」と書かれています。Cel6Aがエンド活性を示すとなると、セオロビオヒドロラーゼの持つクレフトのトンネル構造が一時的にオープンになるのでしょうね。いずれにしてもセロビオヒドロラーゼ間での相乗作用も単純ではなく、セロビオヒドロラーゼはエンド活性も示すということになります。

Charactrization of a cellulosome dockerin domain form the anaerobic fungus Piromyces equi.
Raghothama, S. et al. Nature Struc. Biol., 8: 775-778 (2001)

嫌気性糸状菌のセルロソームについては、まだわかっていないことがたくさんあります。まだコヘシンについてもクローンがとれていません。しかしながら、ドックリンについては先に構造が解かれました。W、Y、Dが結合に関与していると推定されていますが、なんだかCBMのようです。そういえば、糸状菌のドックリンは、CBM10とホモロジーがあるのですが、糸状菌のコヘシンが、実は糖鎖だったするかもしれません。そう考えるとなかなかコヘシンのクローンがとれない理由が見えてくるのかな。

Cel9M, a new family 9 cellulase of the Clostridium cellulolyticum cellulosome.
Belaich, A., et al. J. Bacteriol., 184: 1378-1384 (2002)

ファミリー9のセルラーゼもセルラーゼのなかでは重要です。GH9は植物にもあることから、細菌が植物から拾ったのではないかと私は考えています。このCel9Mは、セルロソームクラスターに出てくる5番目のGH9の酵素で、クラスター上の他のGH9とは異なって、Ig-like ドメインやCBMといった機能ドメインを含まず、ドックリンのみのセルロソームメンバー酵素です。この論文にも出ていますが、GH9は、そのモジュール構成で細分できます。ひとつはGH9-CBM3cの組合わせ、これは、Sakonさんらが構造を解いたThermobifida fuscaの例でも明らかになっているようにCBMが触媒活性に関与しています。2番目は、Ig-like-GH9の組み合わせ、これは、パスツール研で構造の解かれたC. thermocellumのCelDタイプのもの、3番目は、CBM4-Ig-like-GH9というパターン、4番目は、GH9単独のもの。今回のCel9Mは、このパターンです。この論文で、同じ菌のCel9GとCel9Eと酵素活性の比較をしています。Cel9Mは、GH9単独です。酵素活性は、典型的なエンド型を示しました。Cel9Gは、GH9-CBM3cで、エンド型の活性を示しますが、Cel9Mに比べBMCCに対する活性が5倍も高く、エンド-プロセッシブ型を示しています。さらに、Cel9Eは、CBM4-Ig-like-GH9のタイプで、活性は、PNPCに対する活性が、CMCに対する活性よりも高く、セロビオヒドロラーゼ型、つまりプロセッシブ型になっています。このように、酵素活性の特異性は、触媒ドメインの構造だけでなく、そこについているモジュールの性格にもよって変わってくることがわかります。こうしてみるとCBMは単に酵素を基質につけるだけでなく、酵素の性質(基質特異性や分解性)にも強く関係していることがわかります。まさに「モジュールエイドの酵素活性」です。

Cloning, nucleotide sequence and expression of the gene encoding the cellulose-binding protein A (CBPA) of Eubacterium cellulosolvens 5.
Toyoda, A, and H. Minato. FEMS Microbiol. Lett., 207: 141-146 (2002)

ルーメン細菌からのGH9です。少し前まではルーメン菌はGH5だといった議論もありましたが、そんなことはなく、ルーメン菌も他のセルラーゼ生産菌のように、いろんなファミリーをもった酵素システムをもっています。このGH9は、上に書いた1番目のタイプ、GH9-CBM3cのタイプなんですが、興味深いことに、さらに機能不明なドメインが二つも付いているのです。ひとつは大きさからみてもモジュールだと思いますが、もうひとつは、モジュールというよりも触媒といってもいいくらいの大きさなので、新しい酵素かもしれません。つぎに出てくる報文が楽しみです。

Glycoside hydrolases and glycosyltransferases: families and functional modules.
Bourne, Y. and B. Henrissat. Curr. Opin. Struct. Biol., 11: 593-600 (2001).

糖質加水分解酵素、糖質転移酵素と糖質結合モジュールの総説です。いろんなモジュールの存在が明らかになってきており、モジュールエイドの酵素活性をはじめ、今後の糖質加水分解酵素とモジュールについての研究方向も論じています。こまめに、CAZyをチェックしている人なら必要ありませんが、頻繁に見ないときには、たまに出ている彼等の総説をみると、新しく構造決定されたファミリーなど、最近の動向がわかります。

A newly described cellulosomal cellobiohydrolase, CelO, from Clostridium thermocellum : investigation of the exo-mode of hydrolysis, and binding catpacity to crystalline cellulose.
Zverlov, V. V. et al., Microbiology, 148: 247-255 (2002).
いろんな酵素がセルロソームには含まれていますが、「プロセッシブ酵素」のところでも書きましたように、結晶性セルロースの分解には、セロビオヒドロラーゼが重要な働きをもっていることは間違えないようです。これまで、セルロソ−ム中のセロビオヒドロラーゼとしては、ファミリー48の酵素が注目されてきました。この報告では、ファミリー5の触媒モジュールとファミリー3のCBMの組み合わせの酵素CelOについて述べられています。この酵素が、なんとセロビオヒドロラーゼ活性を示しているのです。これまでのところ、ファミリー5では、EC 3.2.1.91の報告はありませんでした。ファミリー5セルラーゼ=エンドグルカナーゼという考えを改めないといけなくなりました。ひょっとするとこれまでエンドグルカナーゼとしてきたファミリー5の酵素のなかにセロビオヒドロラーゼがあったかもしません。あまり既成概念にとらわれずに自分のデータで考えることの重要性を再認識させられました。

α-Galactosidase Aga27A, an enzymatic component of the Clostridium josui cellulosome.
Jindo, S. et al., J. Bacteriol., 184: 600-604 (2002)

Sequence of celQ and properties of CelQ, a component of the Clostridium thermocellum cellulosome.
Arai, T. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 57: 600-606 (2001)

手前味噌の論文を2つ紹介します。上は、Clostridium josuiのセルロソームにα-ガラクトシダーゼがあることを見つけたものです。これによりセルロソームはα-ガラクトース鎖を分解できます。すでにマンナナーゼも見つかっていることからも、ガラクトマンナンといったものも分解しているのではないかと思えます。またこのα-ガラクトシダーゼはファミリー27に属していました。ファミリー27は、真核生物のα-ガラクトシダーゼのファミリーで、この C. josui のAga27Aは、細菌(原核生物)由来のファミリー27の最初の論文です。下の論文は、Clostridium thermocellum のセルロソームメンバーであるCelQについてです。ファミリー9のこの酵素にはファミリー3のCBMがついていました。このCBM領域をとると水溶性セルロースに対する活性も落ちてしまいます。このことは、先に提唱されたCBMが機能(補助)する酵素活性を示唆するものであります。

The cellulosome and cellulose degradation by anaerobic bacteria.
Schwarz, W. H., Appl. Microbiol. Biotechnol., 56: 634-649 (2001)

セルロソームの総説です。セルロソームを全体で見たい、新しい情報を一挙に仕入れたい方にお勧めです。けっこう新しい話題が入っています。著者とは先のGRCで初めて会いましたが、前から知っている人のように声をかけてくれ、関西弁まじりの日本語で語ってくれました。

Cohesin-dockerin interactions of cellulosomal subunits of Clostridium cellulovorans.
ParK, J.-S., et al., J. Bacteriol., 183: 5431-5435 (2001)

確かにスキャフォールディンは、非常に相同性の高いコヘシンのリピートからできている。しかし、よくよくみると少しだけはずれがあるのは確かで、C. thermocellum でも、 C. cellulovorans でも1番のコヘシンが、やや離れている。セルロソームの形成では、コヘシン-ドックリンの相互作用が重要であるが、この論文にあるようにコヘシン-コヘシンの相互作用があるとすれば、スキャフォールディン同士の相互作用が可能であり、このことは、ポリセルロソーム形成において重要な機能を果たすかもしれない。

Genome sequence and comparative analysis of the solvent-producing bacterium Clostridium acetobutylicm.
Nolling, J., et al., J. Bacteriol., 183: 4823-4838 (2001).

微生物ゲノムもずいぶんと増えました。5年前、、ゲノムは、Nature か、Scienceに出るくらいの仕事でしたが、今では、J. Bacteriol. に出るくらい一般化してきました。コストも随分と下がっていますし。さて、アセトン-ブタノール醗酵細菌である本細菌の全ゲノム塩基配列が決定されました。おどろいたことが2つあります。ひとつは、この細菌がセルロソームを形成できる遺伝子をもっていたことです。つまり、スキャフォールディン遺伝子と、ドックリン配列をもつ多くの酵素遺伝子が、ゲノム上に存在していたのです。しかも、クラスターになっており、C. cellulovoranas のクラスターと良く似ています。もうひとつは、非常に大きなプラスミドが存在しており、そこにキシラナーゼ遺伝子が多く入っていたことです。現在、セルロース分解細菌のゲノムシークエンスは、4菌種で進行中です。これらが出揃ったとき、細菌は、いくつの酵素があれば植物を分解できるかが解けるかもしれません。

Adhesion mechanisms of rumen cellulolytic bacteria.
Miron, J., et al., J. Dairy Sci., 84: 1294-1309 (2001)
言うまでもなく草食動物が生きていけるのは、その消化管内に生息する共生微生物の存在があるからです。とくに牛などの反芻動物では、ルーメンと呼ばれる第一胃にたくさんの微生物が生息しており、牛が食べた植物繊維などを分解して、牛に栄養を供給しているわけです。当然ですが、そこは、セルロース分解細菌の活躍の場でもあります。セルロースをはじめとする多糖は水に溶けないわけで、酵素はセルロース結合モジュールを発達させて、繊維表面にはりつきます。一方、繊維分解細菌も同様に繊維にひっつくことがとにかく重要なのです。この論文は、ルーメンに生息するセルロース分解細菌がどのように植物繊維にひっつくかというところの最近の研究をまとめた総説です。

Binding specificity and thermodynamics of a family 9 carbohydrate-bining module from Thermotoga maritima xylanase 10A.
Boraston, A. B., et al., Biochemistry, 40: 6240-6247 (2001)
Crystal structures of the family 9 carbohydrate-binding module from Thermotoga maritima xylanase 10A in native and ligand-bound forms.
Notenboom, V., et al., Biochemistry, 40: 6248-6256 (2001)

このふたつの論文で、ファミリー9のCBMの構造と特性が明らかになりました。ファミリー9のCBMは、ファミリー10の酵素とつながっていることが多いCBMです。この論文では、このCBMがセルロースの還元末端に結合することを示しており、このような特性は、これまでのCBMにみられたなかったものであります。Aliらの最近の報告では、SLHとファミリー9CBMをもったキシラナーゼが、菌体をセルロースに結合するのに機能していることを示しています。このようなことからもファミリー9のCBMは、そういった意味からも興味深いものがあります。

Evidence for synergy between family 2b carbohydrate binding modules in Cellulomonas fimi xylanase 11A.
Bolam, D. N., et al., Biochemistry, 40: 2468-2477 (2001)
セルラーゼやキシラナーゼでは、よくモジュラー構造をしていますが、時に、同じファミリーのCBMがタンデムで並んでいることがあります。たとえば、我々の報告したC. josuiのXyn10Aにもファミリー22のCBMがタンデムで並んでいました。この報告では、二つのCBMがあることが、基質の結合に相乗的に機能することを示しています。3月の学会で、もし、たくさんCBMをつないだらどうなるかを質問されましたが、2つのCBMは有効であるということでしょう。それ以上は、どうなるかは実験してみないとわかりませんね。触媒ドメインが、5つくらいつながった酵素は、見つかっているので、ひょっとしたらCBMが、いっぱいつながった酵素や、セルロース結合蛋白質があっても不思議ではありません。

The X-ray crystal structure of the Trichoderma reesei family 12 endoglucanase 3, Cel12A, at 1.9 A resolution.
Sandgren, M., et al., J. Mol. Biol., 308: 295-310 (2001)

T. reeseiは、セルロース分解糸状菌で、最も有名で、セルロース分解能力も高い菌です。セルラーゼの生産能も高いので、市販セルラーゼ剤をつくるのにも使われています。2つのセロビオヒドロラーゼ、Cel7AとCel6A、5つのエンドグルカナーゼ、Cel7B、Cel5A、Cel12A、Cel61A、Cel45Aが基本成分だと言われています。Cel12Aは、その名のようにファミリー12に属します。ファミリー12は、クランGH-Cに属しており、ファミリー11キシラナーゼと構造上よく似ています。この論文では、高い解像度で、構造が解析され、活性、基質結合サブサイトなどが詳細に示されています。この酵素だけが、CBMファミリー1のセルロース結合ドメインをもっていないのもセルロースの分解を考えるうえで興味深いことだと思います。

Solution structure of a type I dockerin domain, a novel prokaryotic, extracellular calcium-binding domain.
Lytle, B. L., et al., J. Mol. Biol., 307: 745-753 (2001)
セルロソームの形成には、コヘシン-ドックリン相互作用が基本であることが、これまでに示されてきました。すでに、コヘシンの構造はX線結晶解析で解かれていましたが、この論文で、ドックリン側の構造がNMRで解かれました。PDBからダウンロードした構造をみてみると、結合面と思われる側に、二つのリジン残基が出ているのが、特徴的で、それにその周りにあるロイシンやバリンの疎水基が目立ちました。いよいよ、今度は、コヘシンのどこと、どのように、結合するのかが焦点になってくると思います。コヘシン-ドックリン相互作用は、解離定数が、10のマイナス10乗Mくらいで、かなり強いので、そのあたりの蛋白質-蛋白質相互作用の機構という面からも興味があります。個人的には、アライメントをとるとカルシウムの結合領域が特徴的なので、このあたりが結合に効いているのかなと思っていましたが、意外とその後ろにあるへリックスが効いているということのようです。

Pectate lyase A, a enzyamtic subunit of Clostridium cellulovorans cellulosomes.
Tamaru, Y. and R. H. Doi. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98: 4125-4129 (2001)

この論文にで示されたように、実際にセルロース分解酵素複合体、セルロソーム、中の構成酵素として、ペクテートリア-ゼが含まれていたようです。セルロソームのようなセルラーゼ複合体に、このようなペクチン分解酵素が含まれている意義というものを考えないわけにはいきません。セルロソームには、キシラナーゼ、マンナナ-ゼ、フェルラ酸エステラーゼなどが含まれており、単なるセルロース分解酵素複合体というよりも、植物細胞壁を有効に分解する複合体という感じがしてきます。もっともっといろんな酵素が見つかると面白いかもしれません。植物細胞壁を分解するのに必要な酵素がセルロソームに集められているとすれば、その酵素の種類から逆に植物細胞壁の微量成分のようなもの、あるいは特殊な糖の結合というものを推測できるかもしれないからです。

Pectate lyase 10A from Pseudomonas cellulosa is a modular enzyme a containing a family 2a carbohydrate-binding module.
Brown, E. I., et al. Biochem. J. 355: 155-165 (2001)

上の論文のように、セルラーゼ以外でセルロース結合モジュールをもつ酵素を紹介しておきます。これは、ペクチンを分解するぺクテートリア-ゼで、セルロースを分解するわけでもないのにセルロースに結合します。こういった酵素にとって植物の細胞壁を分解するときにセルロースに結合するのは、よい手段であったということだと思います。

A new family of rhamnogalacturonan lyases contains an enzyme that binds to cellulose.
Mckie, A. V., et al. Biochem. J. 355: 167-177 (2001)

この論文でも、やはり、セルロース結合モジュールをもつラムノガラクチュロナンリア-ゼが、報告されています。
このようなペクチン分解系の酵素がセルロースに結合することは、植物細胞壁の分解にこれらのペクチン系の酵素がある役割をになっていることをにおわせます。

A modular estrase from Penicillium funiculosum which releases ferulic acid from plant cell walls and binds crystalline cellulose contains a carbohydrate binding module.
Kroon, P. A., et al. Eur. J. Biochem. 267: 6740-6752 (2000)

以前から、酵素が自分の基質でない糖に結合するのだろうか?という疑問がありました。たとえば、キシラナーゼがもっているセルロース結合モジュールの存在です。キシラナーゼは、セルロースを分解しないのに、なぜセルロースへ結合するのか?天然には、純粋なキシランは存在しないから、植物細胞壁に結合するためにセルロースを使っているのだとか、キシランは構造が一定でないから、構造の安定したセルロースに結合するのだなどと理屈をこねてきました。今回報告のあったフェルラ酸エステラーゼが、ファミリー1のセルロース結合モジュールをもっていたということは、こういった理屈も当たっていることを示しているような気がします。

Cellulosomal scaffoldin-like proteins from Ruminococcus flavefaciens.
Ding, S.-Y., et al. J. Bacteriol. 183: 1945-1953 (2001).

セルロース分解性ルーメン細菌 R. flavefaciens から、2つ並んだセルロソーム関連遺伝子がクローン化されました。これまでに、ルーメン細菌のセルロース分解酵素が、ドックリンモジュールをもっていることから、ルーメン細菌においてもセルロソームが存在しており、その植物繊維の分解に効いていると思っていました。今回報告された結果は、セルロソームの骨格と推定される蛋白質の遺伝子のクローニングです。二つの骨格蛋白質は、ScaAとScaBと名づけられました。ScaAの遺伝子は部分的でしたが、C末端側にドックリンモジュールを持っていました。一方、ScaBは、フルにクローニングされ、7つのコヘシンモジュールとC末端側にひとつの機能不明モジュールからなっていました。ScaAのコヘシンは、ドックリンモジュールをもつ酵素蛋白質と相互作用を示し、ScaAのドックリンは、ScaBのコヘシンと相互作用を示しました。このことは、Clostridium thermocellum でみられる、CipAのタイプ2ドックリンとSbpAとの相互作用を連想させ、ScaBが、なんらかの形で、細胞表層にアンカーされている機構を想像させます。しかしScaBが細胞表層に結合するためには、ScaBのC末端側の機能不明モジュールが結合するのか?あるいは、別の細胞表層蛋白質の存在を考えるのか、不明な点はいくつかあります。実際のところ、Clostridium属においても、はっきりしているのは、C. thermocellumの場合のみで、他のところのものは、これぞという表層結合様式がはっきりしません。またScaAの未クローニングのN末端側はどうなっているのか?セルロース結合モジュールがあるのかないのか?
今後の研究に期待をもたせる内容でした。

トップ アイコンセルラーゼの話題にもどる
直線上に配置