岐阜県におけるヒゲナガカワトビケラ属Stenopsycheの分布とそれを決める1要因について

 

船越進太郎(大垣北高等学校)

 

 毛翅目ヒゲナガカワトビケラ属の幼虫は、川底に網を張り流下する有機物を捉えて摂食する。道具を作って餌をとるユニークな昆虫と言える。生息密度は高くて河川の浄化を行い、魚類の餌となり、ザザムシの名で食料にもなっている。この属にはヒゲナガカワトビケラとチャバネヒゲナガカワトビケラの2種類がいて同定には注意を要す。成虫・幼虫ともヒゲナガがやや大きいが、成虫は一般に脚の距数で、幼虫は頭部背面の模様や前脚亜基節の突起の違いで区別される。 

 かつて両種の分布は上流や支流にヒゲナガが多く、下流や本流にチャバネが多いとされた。今日では多くの河川で両種は混生し分布を決める要因は複雑なようである。

 岐阜県で支流も含めて27河川、91地点、142 の分布調査を行った。調査地点では水温、水深、流速、川底の状態などを記録した。揖斐川の上流にチャバネが優先した地点があった。飛騨は圧倒的にヒゲナガが多く、美濃では中流域にチャバネが優先する傾向があった。

 幼虫に印を付けて放すと巣の中に入り込む。巣を離れ流下する幼虫は、石の下に潜り込まなければ、たちまち捕食者の餌食になってしまう。新たな巣を作るよりすでに作られている巣を奪った方が手っ取り早いかも知れない。小石を集めた巣を作ることが出来ない短時間で、マーク虫が巣の中にいたのは巣をのっとったからと考えた。そこで、回転水槽に幼虫を入れて1昼夜かけて巣を作らせ、近くに幼虫を放して行動を観察した。幼虫は巣に入り込もうとして先住者との間に闘争が起こった。ヒゲナガ(巣の所有者)対ヒゲナガ(侵入者)、チャバネ対ヒゲナガ、チャバネ対チャバネ、ヒゲナガ対チャバネで、それぞれ200組みについて、闘争時間と両幼虫の体重を測定した。ヒゲナガ対ヒゲナガの場合、大きな幼虫が小さな幼虫の巣をのっとった。闘争時間は短く、体重差があるほど短い時間であった。チャバネ対ヒゲナガの場合は、大きなヒゲの侵入者が小さなチャバネの巣を簡単にのっとれず、失敗するものが多かった。また、闘争時間も長く、チャバネは必要に巣を守っているようであった。チャバネが侵入者の場合、所有者がチャバネの場合、大きい幼虫が小さい幼虫の巣をのっとり闘争時間もある程度かかっていた。所有者がヒゲナガの場合、ほとんどのっとりに成功せず、数個体にのっとりが見られた。種間、体重、のっとりの成功・不成功、さらに、種間、闘争時間、のっとりの成功・不成功に対して三元配置の分散分析(Three-way ANOVA)で統計処理を行った。チャバネとヒゲナガの巣をめぐっての攻撃と防衛に差が認められたことから、巣をめぐる行動が両種の共存を許す要因の1つではないかと考えられた。