植物バイオマス応用と植物分子生物学のページ
(BY 木村 哲哉)
植物バイオのちからでエネルギー・環境問題を解決しよう
 私たちは分子生物学的手法を中心にした植物バイオテクノロジー技術を利用して、環境問題を解決するための基礎研究を行っています。現在地球上に存在するバイオマスの10%を利用すればすべての石油製品をバイオマス由来に置き換えることができると言われています。地球上に存在するバイオマスのほとんどは森林ですが、これらをどんどん伐採してしまっては、かえって二酸化炭素を増加させてしまいます。さらに、いずれこれらバイオマスも国際的な争奪が起きることは間違いありません。この問題を避けるには、植物バイオマスの生産性を向上と植物が育ちにくい環境でも生育可能な植物を育種することです。これらの目的を短時間で達成するためには、遺伝子工学をはじめとした植物バイオの力を使わざるを得ません。そこで、私たちはこれらの問題解決に貢献するための基礎・応用研究を行っています。
 植物の研究では、植物の基礎的な知見を得るための研究が数多くなされていますが、応用のための技術開発やそれに関連する基礎研究は少ないのが現状です。私たちは植物バイオの将来に貢献すべく、おもに応用的視点からさまざまな研究を行いたいと思っています。是非一緒に研究をすすめませんか?



微生物工学バイオ実験棟内に研究室専用の植物栽培スペースが確保されています。

培養瓶内で生育しているポプラ

キノコの遺伝子を導入した組換え植物(右)はダイオキシンと構造の似たRBBR色素を分解しています。(左は非組換え体)

内部にある植物栽培室でシロイヌナズナを栽培しています。

植物育成チャンバーも3台稼働しています。

ヒトエストロジェンレセプター遺伝子を導入した酵母でビスフェノールAの定量。右に行くに従いビスフェノールAの濃度が高くなっています。

研究テーマ解説
有害化合物分解能力をもつ植物の育種
土壌微生物には、PCBなど環境汚染物質とされる有機塩素化合物を分解する能力をもつものが存在しています。これは、微生物は本来もっている代謝能力を環境に応じて進化させる速度が早いためです。しかし、有用な微生物を汚染地域に散布しても、すぐにもともと棲んでいた微生物が優勢になってしまいます。このため、このような微生物を自然界で優勢に維持するには、他に無数に存在する野生微生物に打ち勝って生育できるように栄養条件など人工的に生育しやすい環境を作ってやらなくてはいけません。これにはコストがかかるため、広大な土地を微生物のみで浄化するには経済的に効率がよくありません。そこで、太陽光線と水、無機栄養分で生育が可能な植物に、これら有用微生物の汚染物質代謝遺伝子を導入し、長期間にわたって持続的に環境汚染物質を浄化することを究極の目的として研究をしています。
根で高発現するプロモーターの解析と応用
植物で外来遺伝子を発現するには、植物で機能するプロモーター(遺伝子のスイッチ)を付けなくてないいけません。このプロモーターは植物固有あるいは植物種で固有な塩基配列をもつ場合が多く、育種する目的の植物に最適のものを付けなくてはせっかく組換えを行って良い遺伝子を入れても機能してくれません。言うまでもなく根は植物が栄養分を吸収するための重要な器官です。環境浄化を考えてみても、土壌の汚染を除くには植物の根を利用する必要があります。また、塩濃度の高い土壌や、酸性土壌などで植物を育てるためには根の役割はきわめて重要です。そこで、ファイトレメディエーションをはじめ多くの応用が考えられる根で高発現するプロモーターの単離とその解析を行っています。現在、モデル植物であるシロイヌナズナや林木類などからリン酸トランスポーター遺伝子に着目し、この遺伝子の根特異的発現機構の解明も目標にしています。


JBB表紙に採択
2006 vol101(3
)
植物遺伝子工学のための新技術開発
植物に有用遺伝子を導入する場合、アグロバクテリウム法を使う場合が大半です。アグロバクテリウムがもつTiプラスミドが植物染色体に組み込まれることを利用し、このTiプラスミド上に形質転換体選抜マーカーと目的遺伝子を発現するようにして連結し、アグロバクテリウムを介して植物へ導入します。このTiプラスミドベクターですが、非常に分子量が大きく、目的の遺伝子をつなげることが難しい場合がよくあります。特に複数の遺伝子を導入する場合ベクターの構築に大変な困難をともないます。現在、ファージDNAの組み換え酵素を応用したインビトロジェン社のGateway systemが注目をあびています。島根大学遺伝子実験施設の中川強教授はこのGateway対応Tiプラスミドを構築しました。そこで、私たちは中川教授と共同でこのベクターを発展させ植物バイオテクノロジーに貢献するための基礎研究を行っています。
Gateway vector home へリンク (島根大学) http://bio2.ipc.shimane-u.ac.jp/pgwbs/index.htm

これらの成果を報告した論文は、左記の表彰を受けました。共同研究者であり責任著者である中川教授はじめ皆さんに感謝します。今後も植物バイオの発展に貢献出来ればと思います。

2007 BBB論文賞受賞
2008 3月 日本農芸化学会大会

2008 生物工学論文賞受賞
2008年8月 日本生物工学会大会

2008 日本植物細胞分子生物学会 技術賞受賞
2008年 9月
植物バイオマス利用のための研究
最近、石油に替わるエネルギーとして、バイオマスの重要が高まっています。現在はトウモロコシなどのデンプンを使ったアルコール生産が主流です。しかし、トウモロコシなど食料や家畜飼料に利用されている穀物が不足して、食糧の価格が上昇し問題となっています。そこで、食糧ではないバイオマスであるセルロースが注目をあびていますが、過去にはバイオマスとなる植物の分解性を微生物セルラーゼの遺伝子を導入することで改善する研究も行ってきました。

研究成果 報文
Tsuyoshi Nakagawa, Takayuki Kurose, Takeshi Hino, Tatsunori Tanaka, Makoto kawamukai, Yasuo Niwa, Kiminori Toyooka, Ken Matsuoka, Tetsuro Jinbo and Tetsuya Kimura, Development of series of Gateway binary vectors, pGWBs, for realizing efficient construction of fusion genes for plant transformation, J. Biosci. Bioeng., 104(1), 34-41 (2007) PubMed 17697981 
生物工学論文賞受賞
Tsuyoshi Nakagawa, Takamasa Suzuki, Satoko Murata, Shinya Nakamura, Takeshi Hino, Kenichiro Maeo, Ryo Tabata, Tsutae Kawai, Katsunori Tanaka, Yasuo, Niwa, Yuichiro Watanabe, Kenzo Nakamura, Tetsuya Kimura and Sumie Ishiguro, Improved Gateway binary vectors: High-performance vectors for creation of fusion constructs in transgenic analysis of plants, Biosci, Biotechnol. Biochem., 71, (8), 2095-2100 (2007) PubMed 17690442
BBB 論文賞受賞
Takayoshi Koyama, Naoki Kato, Takashi Hibino, Tetsu Kawazu, Tetsuya Kimura, and Kazuo Sakka, Isolation and expression analysis of phosphate transporter gene from Eucalyptus camaldulensis, Plant Biotechnol., 23, 215-218 (2006) PDF.
Takayoshi Koyama, Toshiro Ono, Masami Shimizu, Tetsuro Jinbo, Rie Mizuno, Kenji Tomita, Norihiro Mitsukawa, Tetsu Kawazu, Tetsuya Kimura, Kunio Ohmiya, Kazuo Sakka, Promoter of Arabidopsis thaliana phosphate transporter gene drives root-specific expression of transgene in Rice, J. Biosci. Bioeng., 99(1), 38-42 (2005). PubMed 16233751 表紙に採択されました。
M. Shimizu, T. Kimura, T. Koyama, K. Suzuki, N. Ogawa, K. Miyashita, K. Sakka, and K. Ohmiya, Molecular breeding of transgenic rice plants expressing a bacterial chlorocatechol dioxygenase gene, Appl. Environ. Microbiol., 68 (8), 4061-4066 (2002).PubMed 12147507
T. Kimura, T. Mizutani, T. Tanaka, T. Koyama, K. Sakka, and K. Ohmiya,Molecular Breeding of transgenic rice expressing a xylanase domain of the xynA gene from Clostridium thermocellum, Appl. Microbiol. Biotechnol., 62 (4), 374-379 (2003) PubMed 12684848
T. Kimura, T. Mizutani, K. Sakka, and K. Ohmiya, Stable expression of a thermostable xylanase of Clostridium thermocellum in cultured tobacco cells, J. Biosci. Bioeng., 95 (4), 397-400 (2003)PubMed 16233426.
T. Kimura, T. Mizutani, K. Sakka, and K. Ohmiya, Stable expression of a thermostable xylanase of Clostridium thermocellum in cultured tobacco cells, J. Biosci. Bioeng., 95 (4), 397-400 (2003)PubMed 16233426.
Sun, J.-L., Sakka, K., Karita, S., Kimura, T., and Ohmiya, K. (1998). Adosrption of Clostridium stercorarium xylanase A to insoluble xylan and the importance of the CBDs to xylan hydrolysis. J. Ferment. Bioeng.,85(1): 63-38.


研究費
平成20年度〜22年度 科学研究費 基盤研究(C) 多環芳香族炭化水素分解能をもつ林木の分子育種
平成17年度〜18年度 科学研究費 基盤研究(C) 新規遺伝子多重連結導入システムを利用した環境浄化型林木の分子育種
平成14年度〜16年度 科学研究費 基盤研究(B) 組換え林木をもちいたフェノール系環境汚染物質の浄化
平成14年度〜17年度 (独)農業生物資源研 受託 芳香族塩素系化合物の分解除去能力を付与した組換え植物による汚染土壌の浄化
平成13年度〜15年度 科学研究費 特定領域(A) 土壌汚染物質の組換え植物体による分解除去

植物バイオに興味のある学生・大学院生募集!

詳細は木村哲哉(t-kimura@bio.mie-u.ac.jp)までお気軽にどうぞ