凍上現象(凍結膨張, frost heave)と凍上害(凍上災害, frost-action damage)



 寒気によって地表面が冷やされると、土壌が凍結します。このとき土壌が隆起する現象を凍上現象と呼びます。凍上現象についての詳細な説明はこちらをごらんください。

 土中の水がその場で凍るのであれば、体積膨張は水の体積の1割程度に過ぎず、深刻な隆起は起きません。ところが、土中の水は、ときに凍結面近くに集まり、純粋な氷の塊として析出することがあります。この氷の塊は凸レンズ状をしており、アイスレンズと呼ばれます。土中に何層も析出したアイスレンズは地盤を数10cmも隆起させることがあり、深刻な被害を引き起こします。凍上による地表の隆起高(凍上量, frist heave amount、凍結膨張量、凍上変移量)は土質、寒さ、水分量、上載荷重によって異なります。

 凍上は場所によって不均一に生じます。このため、線路や道路、地上の構造物、地下に埋設されている水道管やガス管などは不均一に持ち上げられ、破壊されることがあります。農地においては、暗渠や側溝などの潅漑排水系が凍上によって壊れたり、植物の根が引き抜かれたり切断されたりすることがあります。さらに道路法面などが凍上により崩壊することもあります。こうした凍上による被害を凍上害といいます。

 左の写真は凍上により亀裂が入ったアスファルトの様子です(北海道・釧路市:1997年7月20日)。一般に、アスファルトは周りの土よりも冷やされやすく凍結が進みます。これは道路が除雪されている場合に顕著です。この結果、道路中央部で大きな凍上が生じ、アスファルトが破壊されます。
 過重や地盤沈下のために生じたアスファルトのひび割れが車両進行方向に対して横向きに見られるのに対し、凍上害では縦方向のひび割れが道路中央付近に見られるのが特徴です。


 こうした凍上害を防ぐため、寒冷地や人工凍結にさらされる土壌では様々な凍上対策(凍上抑制、frost protection)が取られています。上述の様に、凍上は寒さ・土・水の3条件が全て揃ったときに生じます。そこで、これらの条件のうちいずれかを抑制することが凍上対策につながります。つまり、凍上性の高い土を低い土に置き換える、土中の水分移動を抑える、土中の凍結の進行を抑える、のいずれかを行う事が主な凍上対策法だと言えます(複合も可)。

 左の写真はヒートパイプを用いた凍上対策の一例です(Yellowknife, Canada:1998年6月23日)。永久凍土地帯では凍土が融けなければ、再凍結時に凍上害が生じる心配はありません。そこで、ヒートパイプにより地表下を低温に保ち凍土を維持する凍上対策が行われることがあります。 左下の写真は、寒冷地でしばしば見かける建築法です(Tiksi, Russia:1997年8月)。永久凍土層まで杭を打ち込み、その上に床を地表から浮かせて家を建てます。こうすることで、地盤が生活熱で融解するのを防ぎ、凍上が生じないようにしています。右下の写真はユニークな凍上対策の一例です(Yellowknife, Canada:1998年6月23日)。ここでは、池(サーモカルスト湖)上の杭が毎年凍上により持ち上がってしまいます。そこで、毎年冬の終わりにこの杭の一部を切断し、建物(ビジターセンター)が倒壊するのを防いでいるそうです。

 凍上は、地球に限らず小惑星や火星の土でも生じます。また、土壌に限らず、コンクリートや食品、生体細胞など多くの粉体や多孔質体で生じます(土-水系以外での凍上現象)。このため、凍上現象について理解することは広い分野において重要なのです。




 


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