新入生の皆様,ご入学おめでとうございます.

また,本ウェブサイトをご覧くださっている方,ありがとうございます.

自然環境システム学講座では,我々の社会の持続的発展と環境保全を両立するために,理学,農学,工学など,さまざまなScience を駆使し,相性の良い「社会システム」と「(自然)環境システム」を如何に作るかということを考えています.

理学,農学,工学的手法を駆使し’というのは口だけではありません.本講座には,174月現在,8名の教員がいますが,3名が理学系,4名が農学系(2名が水系の農業工学系,1名が景観設計系の農業工学系,1名が林学系),1名が工学系の学部を出身母体としています.

バラエティーに富むと,何がいいのでしょう?

ものごとを色々な観点から眺めることができます.例えば,「水」を例に挙げましょう.環境系の学問領域では,「水それ即ち美しきもの」と考えがちです.しかし,昨年のスリランカでの津波災害,また,近い例では,台風21号による三重県内の土砂災害,津市の浸水害など,水は「脅威である」という側面も持ちます.美しき山を削って,人工的な建造物を作り続けた治水行政には,問題も多々ありましょう.しかし,ある意味,氾濫原たる三角州の上に生活基盤を置かざるを得ない,この狭いわが国では,河川の位置を今ある位置に無理やり押し込まなければいけない,コンクリートを使わざるを得なかったという事情もあったのです.それをやめれば,氾濫原が本領発揮し,洪水災害を伴う流路変更が起こるのですから.しかし,今は,「コンクリート張りの河川」に対する反省もあり,「自然河川への回帰」という流れがあります.我々も,「生活水準・利便性を損なわずに」という制約条件下で「自然に回帰する」手段を探っています.

話が長くなりましたが,自然を守り,環境に配慮し,かつ,我々の生活空間が安全で,さらに,我々の社会が発展し続ける・・・これが如何に贅沢な望みか,お分かりでしょうか?

しかし,社会基盤系学部学科より,軸足をより「環境」に置きつつ,この贅沢な望みの最適解を如何に得るかいうことを,我々の講座では模索し続けます.

以上は,「水」を例に話を進めましたが,今度は,気候・気象学や海洋学を例に話をしましょう.

「水資源」という言葉もあるとおり,「水」は「資源」という意識を持たれることが多いですが,「清澄な大気」「温和な気候」は,我々にとって,水資源以上の貴重な資源です.その貴重な資源を,文明社会は,ないがしろにしていませんか?この図を見て下さい.

これは,気象庁/気象研究所が計算した,50年後と100年後の温暖化データを元に,年平均気温と,現在の平均気温の差を,我々の講座で計算したものです.このまま温暖化が続くと,非常に暑苦しいだけではなく,地球の熱収支バランスが崩れ,予想もできないことが起こるかも知れません.今度はこの図を見て下さい.上で書いたような,温暖化が進んだときの,同じく50年後と100年後の,年降水量の計算値(現在の平均年降雨資料との比で表したもの)です.白い部分は,有意な差がない部分(将来,平均気温が上昇すると,言い切れない部分)です.ここで,有意水準は5%としています.これらはあくまで予測値であり計算値ですが,温暖化の影響で,年降水量がかなり増加する可能性がある地域があることがわかります.

GCM(全球モデル)という言葉をご存知でしょうか.天気予報を計算機の中で行うのと同じように,微分方程式などの数式が並んだプログラムの塊です.その中で,空気中の色々な動きや,雲の量,気温などを計算するのは予想できるでしょう.しかし,上で述べたような,温暖化を研究するモデル(プログラム)としては,大気のプログラムだけでは十分ではありません.海洋の動き,海洋の熱的性質,海に浮かぶ海氷をプログラムに入れないと,温暖化の計算はできないと言っても過言ではありません.また,例えば日本近海を流れる黒潮の動きが,日本の気候に大きく影響を与えることが知られているように,気象・気候に与える,海洋の影響には計り知れないものがあります.

ところで,緑環境(いわゆる植物環境)が,温暖化の緩和に役立つという話はご存知ですね?実のところ,あまり期待しすぎてもいけないという話もあるのですが,少なくとも,緑環境を保全することが自然環境保全に繋がるのは,異論がないでしょう.上で書いた「水」の役割,「大気」の役割と,この緑環境の役割は密接な関係があります.道路に打ち水をすると,涼しくなるのは,水が蒸発する際に,周りの気化熱を奪うからです.このような,地面や水面からの蒸発と,植物体からの生理学的作用による「蒸散」を併せて「蒸発散」といいます.この蒸発散のうち,植物体からの「蒸散」の占める割合は,意外に大きいものです.また,植物の生理学的作用とは別に,樹木の表面や葉の上に留まった雨水が蒸発する量もかなり多いものです.このように,緑環境を整備することは,蒸発散を通して気候の緩和に貢献しますが,ここで挙げたのはただの一例です.

ただし,「自然環境の保全」は,ただやみくもに木を植え,川をあるがままの姿で放置すれば良いというものでもありません.そこには,ある種の哲学と理論が存在します.農村を設計する場合も同じです.我々の講座では,そういうことにも力を入れています.

さて,色々挙げましたが,我々の講座では,気象学や気候学,海洋学や水文水理学,それに緑環境計画学(林学),景観設計学,その他さまざまな分野における教育・研究をしています.上で書いたのはその一端です.手法的には,観測,実験,計算,理論,その他色々やっています.GISなどの先進的手法も普通に使っています.高校生の学問分野で言うなら,物理,地学,数学は勿論のこと,化学や生物学もカバーしています.

それらの学問分野の勉強をさらに深く追求したい人,

地球環境に興味がある人,

逆に開発に重きをおきたいが,環境も考えたいと思う人,

温暖化などの気候変動を研究したい人(三重県内で理学部に進学したい人,お勧めです),

気象予報士になりたい人(同上です),

コンピュータを深く勉強して,将来プログラマーなどになりたい人(もちろん,全く計算機を使わないという選択もできます)

是非,一度,我々の講座に来て見てください.きっと何かが見つかります.

                               平成17年度講座主任 葛葉泰久