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研究内容



 土壌圏や雪氷圏における様々な循環現象について、基礎から応用をつなぐ研究をしています。近年は、土壌の凍結に関する研究も多く扱っています。
 土壌の凍結現象は、古くから凍上対策や人工凍土の有効利用のために重要視されてきました。最近では土壌環境圏の浄化への利用や地球温暖化、資源循環の見地からも注目されている分野です。また、土壌のような粉粒体の凍結現象の知見は、食料保存や医療、材料工学などにも広く応用され始めています。今後、小惑星や火星のテラフォーミングや宇宙開発などにも、こうした知見や技術が活かされていくことでしょう。火星米でお酒を醸造する日が近づいているのです。
 現在行っている(および、今後行う予定の)教育研究の主なトピックスは以下の通り。



不飽和土壌の凍結とその有効利用

・凍結過程にある不飽和土中の水分・熱・溶質移動に関する実験、モデル、数値計算

 畑地や林地など、寒冷地の地表は不飽和状態にあり、これが凍結するとき、様々な物質移動が生じます。こうした移動は、畑地においては土中の栄養塩や有効水分の再分布を引き起こし、時に塩害の原因にもなります。また、廃棄物処理場に凍土のバリアを応用している現場においては、こうした移動を管理・予測することが非常に重要です。さらには、凍結に伴う透水性の変化は、時に融雪水の表面流出を引き起こし、深刻な土壌浸食を招きます。そこで、成層土の凍結や凍土への浸潤などの実験を行い、凍土の透水係数や圧力分布に関するモデルを構築し、さらにはHYDRUSなど数値計算アルゴリズムを修正して現象を理解・予測します。こうした研究は北極温暖化に伴う凍土変動や燃料電池の効率化などに応用されます。


・不飽和凍土中の不凍水量:測定法の開発改良と非平衡場への理論の拡張

・土の凍結に伴うコロイド移動や微生物活性の変化


土壌の凍結とその有効利用

凍上現象のメカニズムとアイスレンズの生成について

・凍結を利用した土壌の浄化
 土壌が凍結するとき、様々な物質移動(mass transfer)が生じます。例えば、水は凍結面近傍に引き寄せられ、各種重金属や塩など不純物は凍結面から吐きだされます。こうした現象を利用して、実際の土壌を浄化する実験を行い、その効率やpH依存性などを調べています。

・凍結融解による土壌撹乱と粒子の破砕
 土の凍結によって動くのは水や溶質だけではありません。土粒子も動くのです。土が凍結融解することで、土壌は撹乱され、大きな石や岩は地表付近に運ばれます。また時には土粒子が砕かれます。こうしたメカニズムの解明、利用に関する実験を行っています。また関連して、構造土などの周氷河地形の成り立ちや、タリクの安定条件などについても考えています。

・土壌冷熱エネルギーの利用
 政府発表の「新エネルギー」に「雪氷冷熱エネルギー」があります。例えば、凍土による食料保存、冷房など用途は様々です。人類の持続的発展(sustainable development)を目指し、環境へ与える負荷が小さく資源制約が少ないエネルギー源である雪や氷、凍土の有効利用を模索しています。


土壌のような多孔質体や粉体中の様々な循環現象を解明するための基礎実験

・土壌中の結晶成長の観察
 土壌中では様々な物質が固化、凝集、付着、吸着、収着しています。例えば、氷やハイドレート、塩や重金属、蛋白質などの汚染物質、実に様々な物質が様々な状態で存在しているのです。そこで、実際に粘土板上や土壌構造中に各種結晶を成長させ、顕微鏡や偏光板等を通していろいろと観察しています。また、その形、付着強度、収着現象について考えています。

・土壌中の水の凝固点降下度や自己拡散係数、不凍水量など物理量の測定
 土などの多孔質体や粉体中の水は、ただの水とはいろいろ異なった性質を持ちます。例えば、凝固点や沸点、自己拡散係数や誘電率などが、粒子の影響によって異なるのです。そこで、粒径や間隙圧、上載荷重などの変化によってこれらがどのように変化するのか?またそれはなぜか?を様々な実験から探っています。


その他、資源循環や、地球規模の環境問題と関連して

・土中のクラスレートハイドレートの観察
 海底や永久凍土下の土壌中には炭素量にして数万ギガトンにも及ぶ大量のメタンが包摂氷化合物(clathrate hydrate)の形で存在しています。メタンハイドレート数立方cmの中に数100立方cmのメタンガスが内包されます。メタンガスは強力な地球温暖化ガスであり、地球温暖化にともなうハイドレートの融解、メタンガスの放出が現在各国で懸念されています。また一方で、メタンガスはクリーンな次世代エネルギー資源です。メタンハイドレートを利用した商業活動も2005年より開始されます。さらに、二酸化炭素をハイドレートとして地底に埋蔵するなど、ハイドレートの有効利用も注目されています。しかしながら、土中でハイドレートが如何にできるのか?またどうやって融けるのか?これらの生成・解離に何がどの程度影響を与えるのか?など分かっていないことが山積みです。そこで現在、実験室レベルでハイドレートを土中に作り、種々の実験を行っています。

・雪氷圏土壌の物理性の空間分布や季節変化の調査
 グローバルな気候変動を考える場合、寒冷地の気候や大気が重要です。寒冷地は地球の冷熱源であり、熱放射源です。また、永久凍土の厚さや分布は地球温暖化の優れたセンサーです。しかしながら、寒冷地の土壌の特性や永久凍土の融解深、土壌と大気の関係に関するデータは非常に乏しく、しばしば、異常に強引な平均値や代表値でもって語られてしまいます。そこで、これらの土壌物理性を実際に現地で調査したり、その空間代表性の評価や変動特性の解析しています。なお、現在はCliC (Climate and Cryosphear)への参加準備中です。

・雪の結晶と汚れ
 近年、大気が汚れてきています。汚染物は主に各種イオンや、ススやチリなどの微粒子です。ところで、微粒子が雪の結晶に付着すると、結晶の形が変わったり、融解速度が変わったりします。こうしたことが実際の寒冷地の気候変化に与える影響も論じられ始めています。そこで、今後実際に様々な環境下で雪の結晶をつくり、微粒子付着による形態変化や融雪速度の変化を調べていきます。

・ビオトープと土壌の物理性
 近年日本においても、自然生態系を重視した環境の保全や創造に関する市民運動, 行政の活動が盛んである。そして、その対象とされる地域は「ビオトープ」という概念のもとに統一されていると言える。今後、ビオトープ土壌の物理性やその変化、ビオトープ内における資源循環などについても調査研究していく予定です。


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