三重大学 生物資源学部 共生環境学科
環境情報システム工学講座 エネルギー利用工学教育研究分野
研究一覧
堆肥の2次発酵 発電状況の計測
概略
本研究では、堆肥生産を簡略化することを目的とし、堆肥の発酵熱と外気との温度差を利用して発電を行い、その電気を用いて堆肥の生産管理を行うシステムの開発を行っています。
1.研究背景
現在,世界の人口は増加の一途をたどっており,それに伴ってさまざまな問題が懸念されているが,その中にエネルギー問題やごみ問題がある.
エネルギー問題では,21世紀を迎えた今日,かねてより予想されていた「石油資源の枯渇」に加え,「地球の温暖化」「産油国の政情不安」「世界的な石油需給バランスの逼迫」などの問題が浮上してきている.そこで従来の一極集中で再生産不可能なエネルギーに依存過ぎていた反省から,「新エネルギー」と呼ばれるエネルギー群が新たに注目を集めはじめた.自然エネルギーを中心とした新エネルギーは環境負荷が小さいことから大きな期待がもたれている.新エネルギーには,自然の太陽エネルギーを起源に持つ資源に制約のない「再生可能エネルギー」と,廃棄物や排熱を利用する「リサイクル型エネルギー」が挙げられる.
また,わが国では1960年代から高度経済成長を遂げ,大量生産,大量消費社会の時代を迎えた.この時期から企業や一般個人の出すごみの量が急激に増加し,ごみ問題が深刻となってきた.これからは廃棄物を循環利用しながら適切に処理をし,自然環境や生活環境を保全する循環型の社会の形成が求められている.現在注目を集めているもののひとつに,大量に排出される生ごみや家畜糞尿を中心とした有機廃棄物の有効利用がある.リサイクル型エネルギーや有機廃棄物の有効利用を考慮し,今現在できることは,限られた資源を有効に利用すると同時に,通常利用されていない大量に廃棄されている未利用の排熱エネルギーを有効利用することで,エネルギーの効率を挙げていくことが重要と考えられる.
2. 研究目的
有機廃棄物の有効利用のひとつとして堆肥化が挙げられる.堆肥生産時には原材料の発酵状態を把握し,適切な時期に生産管理を行う必要がある.現在の堆肥生産方法には大別して,原材料を野積みまたは発酵槽を用いた堆積方式と,定期的に撹拌作業が行われる発酵装置などを備えた撹拌方式に分けられ,設備が簡単であるため前者が最も普及している.前者の場合,撹拌,切り返しなどの発酵途中に必要となる作業は管理者が適期を見極め実施する必要がある.加えて微生物に依存した発酵作用による生産体系のため個々に発酵状態を把握する必要があり,大規模な生産管理には多くの人手とエネルギーを要する.
発酵状態の見極めには発酵時間や,含水率,物質構成,人による色や手触りなどの判断が用いられる.堆肥内部の温度も発酵状態を把握する指標の一つとして用いられ,堆肥内部の温度監視を行うことで発酵の進捗状況を把握できるため,温度変化に基づいた生産管理が行われている.
本研究の前段階として堆肥温度の監視のために無線LANを利用したネットワーク技術を用いて,遠隔で監視する装置を別途開発している.しかし,堆肥の生産現場では電源の利用できないところが多く,電源が利用できるところでもコードが堆肥の切り返しに使う重機や作業者の邪魔になることがある.そのため現場に設置する温度監視装置はバッテリ駆動が前提となっており,稼働時間やメンテナンスの観点からそのバッテリの小型化と長期使用が課題となっている.
一方,堆肥原料の持つエネルギーは家畜糞乾物一キロ当たり4000kcalから5000kcal程度といわれている.管理が適切であればその発酵熱の蓄積により堆肥内部では70℃から80℃程度まで上昇するといわれており,適度に酸素が供給できる環境で大規模に蓄積すれば90℃を超すこともある.また堆肥生産には原材料や生産方法等にもよるが発酵期間は長期間に及ぶ.そのため発酵熱を熱エネルギー源として有効利用できる可能性がある.
本研究では堆肥化を行う際に発生する発酵熱を電気に変換しエネルギーとして利用することで,温度監視装置のバッテリ駆動による稼働時間の制約という課題克服が目的である.発酵熱を現場でのエネルギー源とし,温度差を用いて発電を行う熱電変換素子を発電装置として用い,現場で運用される堆肥温度監視装置の電源として利用する.
本研究ではこれまで堆肥内部の温度分布,ペルチェ素子モジュールの有用性,ペルチェ素子モジュールを用いた発電方法について研究に取り組んできた.これまでの研究成果により発酵熱利用を想定したペルチェ素子モジュールを用いた発電が,本装置の電源として利用可能な発電量を有することが分かっている.