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セルラーゼの話題

 この地球上で、最もたくさん存在している再生利用が可能な有機化合物のひとつがセルロースです。みなさんの目に触れるセルロースは、紙であったり、綿であったりします。もちろん、木にも、そこいらに生えている雑草にいたるまで、植物体にセルロースはいっぱい入っています。セルロースは植物の細胞壁に含まれ、植物の形を作っています。
 セルロースは、グルコース、すなわちブドウ糖の重合体です。澱粉もブドウ糖の重合体です。人間は、澱粉を食べ、それをアミラーゼによってブドウ糖に分解して栄養源としています。しかし、紙を食べても栄養にはなりません。それは、人間には、セルロースをブドウ糖に分解する酵素がないからです。このセルロースをブドウ糖が数個つながったオリゴ糖に分解する酵素がセルラーゼです。
 セルロースは植物によって毎年大量に光合成によってつくられます。これは、太陽がある限り再生可能な物質です。また、化石燃料のような枯渇や、大気中の二酸化炭素濃度の上昇による温暖化の問題もありません。つまり、植物は、空気中の二酸化炭素を取り込んでセルロースをつくります。そして人間が利用しようとしまいと分解されてやがて二酸化炭素にかえります。そして再び植物になるのですから環境への二酸化炭素の負荷も少なくてすみます。これを「カーボンニュートラル」であるといいます。
 温暖化防止のためにバイオエタノールが注目されています。バイオエタノールは、植物の光合成でつくられた澱粉を原料にして作られていますので「カーボンニュートラル」です。しかしながら、澱粉は食料と競合します。つまり澱粉は、人間の食料や、動物の飼料として重要なのです。澱粉質をエタノールにすることは容易ですが、それにより、食料や飼料の値段をあげることなります。そこで、セルロース質からエタノールをつくることが注目されています。
 トラック1トンの古紙は、ブドウ糖で考えれば、澱粉1トンに相当するのです。
 動物には、馬、牛、羊など草食動物というものがいます。彼らは、米(澱粉)でなく、わらや草を食べて生きています。草食動物にも消化酵素としてのセルラーゼはありません。しかし彼らは、その胃や腸にセルロースを分解できる微生物をすまわせているのです。これによってセルロースを分解し栄養とすることができます。どうして黒ヤギさんはお手紙を食べてしまったのか?それは、ヤギにとっては、紙、すなわちセルロースは格好の餌(栄養源)だからなのです。
 毎年、この地球上には、たくさんの植物が生育をします。たとえば、落葉樹を考えると毎年、毎年、秋には、葉が落ちていきます。ところが、森へいくと確かに秋にはたくさんの落ち葉が落ちて地面を埋めていますが、それで、森が埋まってしまうことはなく、いつのまになくなっていってしまいます。これは、これらの落ち葉を食べる昆虫や、最終的に分解する微生物が存在しているからです。これらの昆虫の消化管内や、前に述べたように草食動物の消化管内にも、植物の繊維、つまりセルロースを分解できる微生物がたくさんいます。もちろん、土の中にもたくさんいて、植物が枯れるのをまっているのです。
 この微生物がもつセルロース分解能力を調査、研究することで、なんとかこの豊富に存在し、かつ持続的生産されるセルロースを利用できないだろうかと我々は考えているのです。身の周りには、たくさんのセルロースが存在しています。たとえば、米は、食べますが、もみがらやわらは食べることができません。これらをうまく利用して、エネルギー源や、飼料にすることができないだろうかと。それには、まず、セルロース分解微生物が、どのようにセルロースを分解して利用しているかを知り、その戦略やシステムを学ぶことが重要かと思います。そこで、セルロース分解細菌が生産するセルラーゼについて研究を行っているのです。
 セルロースはとっても頑丈な化合物で、その分解は容易ではなりません。とくに自然界では、セルロース単独で存在するのではなく、他の細胞壁に含まれる多糖類やタンパク質にしっかりとガードされているのです。しかし、自然界で分解できているものですから、かならず酵素で完全分解できると信じています。たとえば、ルーメン菌はセルロースを分解する酵素を数十と、その他の多糖類を分解する酵素も数十ももっています。これらをうまく使って分解していますが、まだ、我々には、わからないものがたくさんあるのです。カリフォルニア大学のR. H. Doi 博士が、我々のようなセルラーゼ研究者はライト兄弟だと言っていました。はじめて空を飛んだ、その距離は、問題ではありません。ライト兄弟が飛んだ距離で何の役にたつのでしょうか?しかし、それから100年、人類は自由に空を飛んでいるのです。わらだって、古紙だって、枯葉だって、今の糖化ではなかなか資源として利用できませんが、みんな資源として利用できる、そんな日が、必ずやってくると思ってがんばっています。

セルラーゼの国際会議、三重バイオフォーラム2014を開催いたしました、たくさんのご参加、御礼申し上げます。

リンク集をつくってみました(Last update; 7.9.2007)

セルラーゼのファミリーとは?

嫌気性微生物が生産するセルラーゼ複合体「セルロソーム」とは?

セルラーゼのモジュール構造

セルロース結合モジュール(ドメイン)とは?

プロセッシブ酵素について

セルラーゼ活性測定

セルラーゼとセルロソームに関するゴードン研究会議

セルラーゼ関連論文紹介(Last update; 2.17.2003)

微生物・植物以外を由来とするセルラーゼ関連論文リスト(Last update; 10.17.2001)

 
紙を微生物により分解することができます(ろ紙にClostridium thermocellumを接種、60度24時間培養)

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