【特集:学生へのインタビュー取材06】近くて遠いスナメリの不思議を知りたくて


寺田知功さん(生物圏生命科学専攻,博士後期課程3年,海洋生物学教育研究分野,担当教員:森阪匡通教授)へのインタビュー取材が行われましたので、ぜひご覧ください。

 現在に至るまで 

 昔から「動物たちはどんなことを考えて,何を話しているのだろうか?」という疑問を持っていました.野生動物を対象としたコミュニケーションの研究がしたかったため,東京農業大学に進学し,卒業研究ではムササビの音声コミュニケーションについて研究をしました.大学院では,音声コミュニケーション研究が盛んにおこなわれているイルカを対象に研究がしたいと思い,三重大学の大学院に進学しました.「イルカ=多様な鳴音でコミュニケーションを行う」と思っていたのですが,どうやらそうではなく,音声コミュニケーションをするか否かでさえわかっていない種がいることを知り,とても興味がわきました.その種こそ,スナメリでした.

 スナメリってどんな動物?

 スナメリは日本等の沿岸域に生息するイルカの仲間です.イルカと聞いてぱっと思い浮かぶ体の形とは少し異なり,吻(ふん)がなく,背びれもなく,グレー一色の見た目をしています(図1).三重大学が面している伊勢湾にも生息しており,大学近くの海岸や,研究室がある建物から見ることができるほど,人に近いところで暮らしています.そんな身近な動物なのに,いつどこへ行き,どんな社会を持ち,どうやって他個体とコミュニケーションを取っているのか,わかっていません.近くにいるはずなのに,不思議がいっぱいで遠くにいるように感じます.




図1 スナメリの外見

 スナメリは音声コミュニケーションをしている? 

 私は大学院で,スナメリの音声コミュニケーションについて研究をしています.三重県鳥羽市にある鳥羽水族館で飼育されている個体を対象に行った研究では,「タタタッタタタッ」という特徴的なリズムで発される「パケット音」という音声タイプ(図2)を発見し,これがスナメリにとってのコミュニケーションの鳴音であることを明らかにしました.スナメリも,音声コミュニケーションをしていたのです.この成果をまとめた論文は,Journal of Ethologyという動物行動学の学術誌に掲載されました.このパケット音は,大学近くの海に生息する野生個体からも記録されたことから,スナメリという種レベルで発する音声タイプであると考えられます.


図2 パケット音の音響スペクトログラム.
音を可視化することで定量的な解析ができる.
横軸に時間,縦軸に周波数,色の濃さで音圧を示している.


 スナメリの研究ってどうやるの?

 日本では,鳥羽水族館を含む6つの水族館でスナメリが飼育されています.そのため,水族館との共同研究として,飼育個体を対象に調査を行います(図3).特に三重大学と鳥羽水族館は産学連携に関する包括協定を結んでおり,共同研究を行いやすい環境が整っています.また,近くの海には野生のスナメリが生息しているため,船を出したり,ドローンを飛ばしたりして,野生個体を対象に調査をすることもあります(図4).



図3 鳥羽水族館での調査風景.

図4 三重大学近くの海で,船からドローンを飛ばしている様子.


 国際学会に参加して得たこと


 2022年8月にはフロリダで開催された国際海棲哺乳類学会,2023年7月には,アラスカで開催された国際哺乳類学会に参加し,ポスター発表を行いました(図5).学会では,自身の研究成果を発表して様々な専門分野の研究者から意見をもらい,議論を深めることができました.優秀な国内外の研究者と交流でき,大変良い刺激を得ました.彼らは自分の進む道を自分で決め,好奇心のままに,充実した人生を送っているように見えました.私も彼らのように生き生きと,自分の人生を生きたいと思いました.



図5 アラスカで開催された国際哺乳類学会の発表風景.


 研究費獲得への道中で学んだこと


 私は2022年度から日本学術振興会特別研究員(DC2)に採択されており,研究奨励金と研究費を頂いています.これに採択されるには,自身の研究がどう重要で,何の役に立つのかを端的にまとめて,自身の研究の魅力をアピールして,同じ分野の研究者に認めてもらう必要があります.その道を究めたプロに認められる申請書を書くのは大変困難です.数か月にわたり文章を推敲し,自身の研究テーマと向き合い続けました.険しい道のりではありますが,それゆえに採用された時の喜びも大きかったです.道中で得たものも大きく,研究者として生きていくために必要な,「自身の行いをどう社会に還元するのか」という視点,論理的思考力や文章構成力を育むことができたと自負しています.その他,京都大学野生動物研究センター共同利用・共同研究,藤原ナチュラルヒストリー振興財団,地球環境に調和した持続可能社会を実現する地域連携型フェローシップ(三重大学)からも研究助成をいただくことができ,研究活動に邁進できたことは非常に有難かったです.


 未来の三重大生へ

 三重県には豊かな海と山があり,三重大学ではこれらを活かした研究をすることができます.特に三重大学には鯨類研究センターがあり,日本で一番,イルカの研究をしやすい環境が整っていると言っても過言ではありません.さらに,高い志を持つ学生が多く,日々切磋琢磨しながら成長することができます.自然や動物に興味がある方は,ぜひ三重大学に足を運んでみてください.きっと,心の底から夢中になれる何かに出会えるはずです.



海洋生物学教育研究分野
➡ https://www.bio.mie-u.ac.jp/academics/doctor-15/dep03/course06/lab83/

附属鯨類研究センター
➡ https://www.bio.mie-u.ac.jp/academics/facilities/cetacean/






パンフレット