【特集:学生へのインタビュー取材01】イミダゾールジペプチドの新しい定量分析法の開発

2021年度と2022年度日本食品科学工学会中部支部大会にて慶徳紗希さん(生物圏生命科学専攻,博士前期課程二年,海洋食糧化学教育研究分野,担当教員:柴田敏行准教授)が優秀発表賞に選出されました.
慶徳紗希さんへのインタビュー取材が行われましたので、ぜひご覧ください。

 現在に至るまで 


もともと別の大学で管理栄養士の勉強をしていましたが,学部3年の時に三重大学生物資源学部に編入学しました.その頃,機能性食品や分析に興味を持ち海洋食糧化学教育研究分野(海洋食糧化学研究室)に所属しました.その後,大学院に進学し,イミダゾールジペプチドの新しい定量分析法の開発に着手しました.この分析方法を用いることで深海魚や鯨類の小型ハクジラ類に3種類のイミダゾールジペプチドが含まれることが初めて分かりました.これらの成果が評価され,2021年度と2022年度日本食品科学工学会中部支部大会にてそれぞれ優秀発表賞を受賞しました.

 イミダゾールジペプチドとは?


イミダゾールジペプチドとは,イミダゾール基を含むアミノ酸結合体の総称であり,アンセリン,バレニン,カルノシンの3種があります(図1).イミダゾールジペプチドを多く含む動物は,マグロやカツオなどの大型回遊魚,クジラ,渡り鳥であり,持久力の向上や疲労を低減させる生理機能があります.イミダゾールジペプチドは新しい生理活性物質として注目されているますが,生体内からの分離が困難であり,定量分析が難しいのが課題でした.


図1 イミダゾールジペプチドの化学構造式


 イミダゾールジペプチドの新しい定量分析法の開発 


今回開発したイミダゾールジペプチドの新しい定量分析方法として,液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)を使い,送液条件を検討することで分析時間を大幅に短縮し,高感度かつ高い再現性を得ることに成功しました(図2).


図2 LC/MSを活用したイミダゾールジペプチドのクロマトグラム
アンセリン(ANS),バレニン(BAL),カルノシン(CAR).各名称の下の数字は、検出される時間(min)を示す.分子量が同じANSとBALを分離することができ,短時間で分析を完了することが出来る.

 食用深海魚,未利用深海魚および小型ハクジラ類の筋肉に含まれるイミダゾールジペプチドの定量


遠州灘と熊野灘では,沖合深海底引き漁船による深海魚漁が行われており、アオメエソ(メヒカリ)やニギス,ユメカサゴ,アカムツ,クロムツなどの魚種が形原漁港(愛知県蒲郡市)や尾鷲港(三重県尾鷲市)にて水揚げされています.これら食用深海魚と勢水丸の調査航海にて捕獲された未利用深海魚について,今回開発した手法を用いることでイミダゾールジペプチド量を測定しました.その結果、カサゴ類を除く魚種でアンセリンとバレニンが検出され,高い水圧や低温の環境下に生息する深海魚の筋肉にもイミダゾールジペプチドが含まれていることが明らかになりました. 調査捕鯨で水揚げされるクジラの多くは大型の鯨類であるヒゲクジラ類であり,これらはバレニンを豊富に含みます.一方,小型の鯨類であるハクジラ類は,和歌山県太地町で古来から熊野灘で漁が行われていますが,栄養成分などの研究が少なく,イミダゾールジペプチドに関するデータも少ないです.小型ハクジラ類5種からイミダゾールジペプチド量を測定した結果,ヒゲクジラ類に分類されるミンククジラではアンセリンは検出することはできませんでしたが,小型ハクジラ類では,アンセリン,バレニン,カルノシンの3種全てを含むことが分かりました.ミンククジラではバレニンが豊富に含まれていましたが,小型ハクジラ類ではミンククジラと比べバレニンの量は約半分でした.興味深いことに小型ハクジラ類ではミンククジラと比べカルノシンの量は約10倍も含まれていることが分かりました.

 今後の展望


今回の研究でイミダゾールジペプチドの定量法を開発し,東海・近畿地方で水揚げされる特徴的な水産物についてそれらの量を明らかにすることが出来ました.本手法を用いることで鯨肉加工品など水産加工品のイミダゾールジペプチドの定量や加工の前後におけるイミダゾールジペプチド量の変化を解析することも可能です.最近になり、イミダゾールジペプチドの生理機能として,尿酸値を低下させる作用が報告されました.本手法は,イミダゾールジペプチドのバイオアベイラビリティの解析など機能性成分としての開発研究にも用いることが出来ます.

 未来の三重大生へ


三重大学生物資源学部では,たくさんの研究室があるので,自分の興味がある研究室(教育研究分野)を見つけることができます.また,担当教員の先生とディスカッションすることで研究の方向性を決め,興味のある研究を深く探求することが出来ます.

 リンク


➡ 海洋食糧化学教育研究分野のホームページ







パンフレット