【特集:学生へのインタビュー取材04】持続可能な牛肉生産への鍵:牛のデンプン利用の研究

股村真也さん(資源循環学専攻,博士後期課程1年,草地・飼料生産学教育研究分野,担当教員:近藤誠准教授)へのインタビュー取材が行われましたので、ぜひご覧ください。

 現在に至るまで 


 私は農業高校を卒業後、農業大学校で1年間、牛の飼育方法について学びました。そして、牛についてさらに詳しく学ぶため、三重大学の生物資源学部に入学しました。牛肉のもとである牛の生産性を向上させるような研究に興味を持ち、草地・飼料生産学研究室に所属しました。そこで、普段私たちが米やトウモコロシなどから摂取するデンプンを牛がどれくらい利用しているかについて研究しました。




 デンプン質飼料の現状


 デンプンは、食料や飼料、エネルギーとしても利用できる有用な資源です。穀物に含まれるデンプンの量は、品種や栽培条件によって異なります。一般的に、小麦(77%)、トウモロコシ(72%)、大麦(58%)などが高いデンプン含量を持っています。牛のエネルギー要求量の約50%はデンプンからまかなわれており、日本で飼育されている肉用牛(約260万頭)は1日に約1万トンのデンプンを利用しています。これは一般成人男性が炭水化物から得る1日に必要とするエネルギー2600万人分とほぼ同等です。多くの飼料穀物を輸入している日本ではこれらのデンプンの有効利用が重要になります。しかし、私が行った調査では、糞中にいくつかのデンプン(トウモコロシ由来)が消化されずに残っていることが分かりました。このようなデンプンは牛のエネルギーロスや糞の堆肥化における温室効果ガスの排出に繋がる可能性があるため、牛がデンプンを効果的に消化吸収できる方法が求められています。


図1 牛におけるデンプン資源の利用

 作成したデンプン利用率の推定式の簡易利用 


 牛のデンプンの利用率を確認するためには、個々の牛が食べる餌の量(採食量)と排出する糞の量(排糞量)を長い時間(平均5日間)採取、測定する必要があります。しかし、多くの農場で個々の牛から採食量と排糞量を測定し、デンプン利用率を測定することは時間や労力的に困難であり、デンプン利用率に関するデータの蓄積も難しい状況にありました。そこで、この研究では、糞中のデンプン量の測定だけで牛がどの程度デンプンを利用したかを推定する式を作成しました(図2)。この推定式を利用することで、牛から1回だけ糞を取り、その糞中のデンプン含量のみからデンプン利用率を高い精度で推定することができることが分かりました。この簡易な推定式を利用することで、長時間の測定をせずに、デンプンの利用率に関するデータを容易に収集することができます。これにより、デンプンの効率的な利用に関する研究や実践に役立つことが期待されます。


図2 糞中デンプン含量とデンプン利用率の関係
 赤い点は収集した複数の糞のデンプン含量(X)とデンプン利用率(Y)が重なる部分を示しています。
また黒い線は、図の赤い点に最も適合する直線です。
の直線の式(Y=aX+b)を利用して、デンプン利用率を推定することができます。

 深層学習を用いた糞中デンプン含量の推定


 デンプン消化率の推定に必要な牛糞に対してのデンプン分析法はいくつか挙げられますが、これらの方法は分析サンプルである糞を乾燥・粉砕した後に煩雑な分析工程があり、長い時間が必要になります。多くの農場での調査を可能にするためには、短時間で簡易に定量できる測定方法を確立する必要があります。そこで様々な畜産における作業を効率化してきた人工知能を利用することで牛糞のデンプン分析を簡略化できるのではないかと考えました。糞の写真を撮影し、撮影した写真を人工知能に学習させることでデンプン源であるトウモコロシを検出することができました(図3・左)。その検出したトウモコロシの情報を元に糞中デンプン含量の推定を行ったところ、高い精度で検出することができました。この手法を活用することで、デンプン分析に要する時間を50時間からたったの10分程度の写真撮影に短縮することができました。これにより、糞中デンプン含量の簡易な推定が可能となりました。この手法を農場で広く利用することで、デンプン利用率の調査や評価を迅速かつ効率的に行えることが期待されます。


図3 トウモコロシ検出の写真(左)と実測値と予測値の関係(右)
 青い点は、収集した複数の糞のデンプン含量の実測値(X)と予測値(Y)が重なる部分を表しています。赤い線は、Y=Xという直線を表しており、実測値と予測値が近いほど、青い点は赤い直線上に位置します。つまり、実際の値と予測した値がほぼ一致すると、青い点は赤い直線上に並びます。

 今後の展望


 今回の研究により、簡易に牛のデンプンの利用率を測定することが可能になりました。 今後は多くの農家や農場で牛糞の調査を行い、 デンプンの利用効率を高めていくことで肉用牛の生産性の向上に繋げていきたいと思っています。

 未来の三重大生へ


 大学での研究は、これまでの学習とは異なり、自分の興味や関心のある分野に深く潜り込み、新たな知識の創出に携わることができます。また、研究の成果を実社会で役立てることができる醍醐味もあります。もし研究中に困難な課題に直面した場合でも、大学の図書館には多くの専門書が揃っており、その情報を活用することができます。また、大学には専門性の異なる先生方がおり、自由に質問や相談をすることもできます。
 ぜひ、自分が本当にやりたいことや挑戦したいことを大学で実現してみてください。大学での学びと研究は、将来の自分にとって貴重な経験となります。自らの関心を追求し、自由な発想で問題に取り組むことで、新たな発見や成果を得ることができると思います。







パンフレット