三重大学

生物資源学部生物資源学研究科

米田泰城さん，今田泰斗さんらの研究成果が英国の学術誌
Nature Communicationsに掲載されました！

この度，生物圏生命科学専攻・分子細胞生物学教育研究分野（竹林慎一郎教授，Poonperm Rawin助教）の米田泰城さん（2023年度博士前期課程修了），今田泰斗さん（博士前期課程2年）らが，たった１つの動物細胞からDNAとRNAを同時に取り出し，これまでにない高い精度で細胞の状態を解析できる新技術の開発に成功しました。

ゲノムDNAを調べることで、その細胞がどのような異常や特徴を持っているかがわかります。一方，RNAを調べることで，ゲノムDNAのどの部分が実際に使われているか（＝発現しているか）といった細胞の機能に直結する情報を知ることができます。高速塩基配列解読装置である次世代シーケンサーが登場したことで，最近では，ヒト細胞の30億塩基対という巨大なゲノム全体を解読したり，細胞内のほぼ全ての遺伝子の活動を一挙に調べるトランスクリプトーム解析と行った網羅的な研究が盛んに行われています。

今回，研究チームは１つの細胞からDNAとRNAの両方を同時に取り出し，次世代シーケンサーで解析するという新しい手法scRepli-RamDA-seq (scRR-seq)を開発しました。１つの細胞に含まれるDNAとRNAはピコグラムのオーダーであり（１ピコグラムは，１グラムの１兆分の１），ごく微量であるため，一般的に解析は難しいです。しかし研究チームは，これまで１細胞ゲノムコピー数解析法scRepli-seqと，1細胞トランスクリプトーム解析法RamDA-seqを独自に開発しており，今回これらの方法をうまく組み合わせることで１細胞レベルでのゲノムDNAとRNAの同時解析を可能にしました。１つの細胞を溶かして作ったサンプル液中に存在するごく微量のDNAとRNAを分離するための実験的な工夫を行ったことも，新技術の開発を実現できた大きな要因でした。

scRR-seqを用いて１つ１つの細胞を調べることで，例えば，細胞集団中にごくわずかな割合で存在するゲノムに異常を持つ細胞を特定し，それが遺伝子の発現パターンにどのように影響しているのかといった情報を得られます。数万個以上の細胞をすりつぶして取り出したDNAやRNAを解析の対象としている従来の実験的アプローチでは，得られるデータは細胞集団の平均値でしかなかったので，このような少数異常細胞の同定や機能を明らかにすることは困難でした。

腫瘍組織では，遺伝子発現やゲノムDNAコピー数変異が個々の細胞ごとに異なり、それが腫瘍の進行や治療に対する抵抗性に関係することが知られており，今回開発されたscRR-seq手法はそのような組織中の細胞の個性の違いを検出するのに威力を発揮します。この手法は，他にも様々な応用が見込まれることから，今後の展開が期待されます。

この研究は，理化学研究所，東京科学大学，大阪大学の研究者と共同で行われ，英国の学術誌「Nature Communications」（12月15日付）に掲載されました。

詳しくは以下のサイトをご覧ください。

三重大Ｒナビ
細胞１つ１つの個性が手にとるようにわかる新技術の開発に成功
―疾患メカニズム解明から胚発生研究まで多様な応用に期待― 本プレスリリースの本文

三重大学プレスリリース

https://www.mie-u.ac.jp/news/topics/2025/12/post-3903.html

JSTプレスリリース

https://www.jst.go.jp/pr/announce/20251215/

関連リンク

分子細胞生物学 研究室
https://www.bio.mie-u.ac.jp/academics/master-15/dep03/course07/lab41/ 生物資源学部：研究・社会連携 生物資源学部：論文情報アーカイブ