【特集:学生へのインタビュー取材03】動物細胞のDNA複製と脂肪蓄積の関係を解明

山本朝陽さん(生物圏生命科学専攻,博士前期課程2年,分子細胞生物学教育研究分野,担当教員:竹林慎一郎准教授)へのインタビュー取材が行われましたので、ぜひご覧ください。

 現在に至るまで 


 昔から食品の原料や医薬品の効能を調べることが好きで、それらについて学ぶことができる 三重大学 生物資源学部 生物圏生命化学科に入学しました。大学での講義を通して、細胞やDNAが生命活動の維持や疾患に深くかかわっていることに興味を持ち、分子細胞生物学研究室に所属することを決めました。現在は大学院に進学し、マウスの培養細胞を用いたDNAの異常なコピー数増幅や、脂肪の蓄積が起こるメカニズムを解明する研究を行っています。
 今回は、研究室の博士の先輩や同期とともに取り組み、英国の科学誌 Journal of Cell Science に掲載された、脂肪細胞に関する研究プロジェクトについて紹介させていただきます。

 DNAの複製から細胞の性質を読み取る


 細胞は、体細胞分裂を行う前に、DNAを複製(倍加)させることで、分裂した2つの細胞のためのDNAを用意します。細胞周期と呼ばれる細胞の増殖サイクル中でDNA複製を行う時期をDNA複製期といいます。このDNA複製はランダムにおこるのではなく、染色体DNA上のどの領域から始まるかが決まっており、目の細胞、骨の細胞などそれぞれの細胞種ごとに固有の複製の順序(複製タイミング)が存在します(図1)。


図1 細胞周期と複製タイミングについて

 また、複製タイミングはその細胞種の特徴を示しており、複製タイミングが早いDNA領域には、その細胞種にとって重要な遺伝子が存在していることが多くあります。私たちは、様々な細胞の複製タイミングや遺伝子発現パターンを解析することで、種々の生命現象の理解を目指しています。


 肥満と脂肪細胞について


 肥満は、メタボリックシンドロームの主な原因の1つとして、近年世界的に深刻な問題とされています。肥満の主な原因として、エネルギー摂取と消費のアンバランスが挙げられ、同時に生体内では脂肪細胞の増加や肥大化が生じています。前駆脂肪細胞が増殖・分化することにより脂肪細胞ができるため、肥満予防研究のモデルとしてマウス胎仔由来の前駆脂肪細胞が広く用いられています。この細胞にホルモン刺激を加えて分化誘導を行うと、MCE と呼ばれる1回または 2回の特殊な細胞増殖サイクルを経て成熟した脂肪細胞へ分化することが知られていました(図2)。しかしながら、このMCEの間にどのような変化が細胞に起こっているのかについては、これまで詳しいことは分かっていませんでした。


図2 分化前後の細胞の様子

 脂肪細胞の複製タイミング変化からわかること 


 そこで私たちは、MCE中の脂肪細胞のDNAの複製タイミングに着目しました。免疫沈降と呼ばれる特殊な実験方法を用いて細胞から複製中のDNAを取り出し、それを高速塩基配列解読装置(次世代シーケンサー)で解析しました。その結果、MCE中の細胞では、脂肪蓄積などに関わる複数の遺伝子が通常より早いタイミングで複製していることが分かりました(図3)。興味深いことに、このタイミング変化は1回目のMCEサイクルでは起こらず、2回目のサイクルで初めて起こっていました。この結果から、脂肪細胞になる前の細胞が何回のMCEサイクルを経るかが、その後の脂肪細胞の機能に影響することが予想されました。実際に2回のMCEサイクルを経た細胞は、1回だけMCEサイクルを経た細胞や1回も経なかった細胞に比べ、顕著に脂肪を細胞内に蓄積していることが実験で観察されました。以上のことから、脂肪の蓄積にとって2回目のMCEが重要な役割を果たしていることが分かりました。


図3 脂肪細胞の複製タイミングと脂肪蓄積の関係

 今後の展望


 今回の研究により、脂肪細胞における複製タイミングと脂肪蓄積に関わる遺伝子の発現制御との関係が明らかになりました。今後は、人為的に複製を制御することで,もっと効率的に脂肪細胞に分化させたり,逆に脂肪細胞ができるのを抑えたりするような研究に発展させていきたいと考えています。今回の知見や今後の研究で明らかになることが、将来、肥満治療薬の開発などにとって有用な情報となることを期待しております。

 未来の三重大生へ


 三重大学生物資源学部では、食品や医薬品、陸・海の動植物、環境問題など私たちの生活に身近な物事について幅広く学ぶことができます。生物が好きな方、自然が好きな方、食べることが好きな方など多くの方が、生物資源学部に興味を持っていただけると嬉しいです。
 そして、研究室では、一人一人が研究室の分野に沿った1つのテーマについての研究を1年以上かけて行います。皆さんの興味関心を、ぜひ研究の場で発揮してください!








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