【特集:学生へのインタビュー取材05】木の根と共生する「菌根菌」の生き様を紐解く

健康な木々の成長の秘訣は土の中の微生物に

瀬川あすかさん(資源循環学専攻,博士前期課程2年,森林微生物学教育研究分野,担当教員:松田陽介教授)へのインタビュー取材が行われましたので、ぜひご覧ください。




現在に至るまで

 小さいころから自然や生き物に関心があり,学部生の時は別の大学で農学から林学まで様々な分野を学びました.ユニークで専門的な授業を受ける中で,森林の木々が生きるためには,土の下の細い根の先端部分に共生する微生物との共生関係が不可欠であることを知り,その働きに興味を持ちました.この微生物(図1)は「菌根菌」とよばれ,カビやキノコの仲間で,身近な例ではトリュフやマツタケが挙げられます.私は,彼らがどのように土の中の養分を獲得し,樹木の成長に貢献しているのかを明らかにしたいと考え,菌根菌の専門家が所属する三重大学の大学院に進学しました.海にも山にも近く,常に身近に自然を感じられる三重大学で,少しずつ菌根菌の暮らしぶりを解明していく過程はとても楽しいです.


図1 左:菌根が作られていないクロマツの根.右:菌根が作られたクロマツの根(右下のバーは1 mmを示します).
菌根菌によって菌根が作られると,根が太くなり,菌糸(右写真)が菌根から土の中に伸びていきます.



菌根菌研究ことはじめ

 三重大学ならではの特徴は,キャンパスから徒歩10分ほどで海に行けることです.私は海が好きで,リフレッシュによく散歩に行きます.海に面している松林は同時に調査地でもあり,現在,私は海岸に生えている「クロマツ」の根に関わる菌根菌に着目して研究しています(図2).海岸からの潮風は畑の野菜の成長に悪影響を与えたり,潮風に舞った砂が住宅に入り込むなど,海岸付近で生活する人々の生活に危害を及ぼすことがあります.それらを防ぐ防風林として,海岸の砂地のような栄養の少ない厳しい環境でもよく育つ丈夫なクロマツが日本の海岸には植えられてきました.



図2 クロマツ林での調査風景.
研究室のメンバーと協力して調査を進めていきます.



海岸で育つクロマツの成長には,その根に共生する菌根菌が深く関係しています.菌根菌は,クロマツの細い根を糸状の菌糸ですっぽりと覆い,ちょうど刀を納める鞘のような器官「菌根」を作ることで,クロマツの根と共生しています.この菌根が,海岸の厳しい環境からクロマツの根を守っています.さらに,菌根菌は,クロマツの根に作った菌根から細い糸の形をした「菌糸」を伸ばし,根の代わりに土の中の栄養を集めてクロマツへ渡すことで,栄養の少ない海岸でのクロマツの成長を助けています.海岸のクロマツは,2011年に発生した東日本大震災に伴って発生した津波の被害を軽減したことで,防災林としての重要性が再評価されました.一方で,被災地では多くのクロマツが津波で失われたため,新たにクロマツを植える必要があるのですが,クロマツが順調に育つためには菌根菌の働きが不可欠です.私はクロマツの菌根菌がどのような働きをしているかを日々調べています.研究の1つとして,菌根菌が土の中の養分を得るために,菌根から長く伸ばす「菌糸」の長さや数を顕微鏡で測りました(図3).


図3 左:顕微鏡で菌根を観察する様子.

右:クロマツ菌根の断面図と,菌根から伸びる菌糸.
学会では,この菌糸が根の代わりにずっと遠くまで土の中へ伸びていることが示唆されるデータを発表しました.



2ヶ月間,顕微鏡を覗き込んでは菌糸の長さを測るという作業を繰り返し,その結果,菌根菌は根の代わりに,ずっと遠くまで菌糸を伸ばして栄養を獲得していることを示唆するデータが得られました.この成果は「中部森林学会」という学会で発表を行い,さらに,研究論文としても執筆し,自分の行った研究を形あるものとして残すことができました.ここに至るまでは大変な道のりでしたが,自分の興味のあることをとことん突き詰めることができ,苦労以上に楽しさが勝りました.


研究助成金の獲得

 自由な発想で研究をするためには,どうしてもお金がかかるので,研究者は研究費を獲得する必要があります.世界中の研究者は日々研究に取り組みながら,自分の研究をアピールして研究費を得るため様々な支援団体に研究費を申し込んでいます.私は,修士課程1年時に,学生も応募できる「笹川科学研究助成」という支援団体への応募にチャレンジしました.申請書は,自分の研究をたくさんの方々にわかりやすく伝えるために,自分の研究の面白さや世界へ与えるインパクトをアピールする必要があります.申請書の内容を練り直すこと3ヶ月、担当教員と何度も申請書のやり取りを行った末に提出しました.およそ半年後,結果が知らされ,採択された時の喜びはひとしおでした.自分で考えた研究が誰かに認められ,研究者の仲間入りをした気分でした.また,自分の研究を応援してもらえることに嬉しさと自信がみなぎるのを感じました(図4).


図4 笹川科学研究助成「研究発表会・研究奨励の会」にて.

未来の三重大生へ

 高校と大学の大きな違いは学びの主体性だと私は考えています.もちろん大学でも高校と同じように講義を受けて単位を取る必要がありますが,講義を通して興味を持ったことは自分で深く掘り下げることができます.その興味を突き進めると,主体的に取り組み,新たな自然現象を発見する卒業研究や大学院での研究につながります.私は三重に来てまだ1年ですが,生物資源学部には自分の好きな研究に没頭できる環境が整っていることを日々実感しています.ぜひ自然に囲まれた三重大学で好きなことに熱中してみませんか.


リンク


森林微生物学教育研究分野のホームページ
https://www.bio.mie-u.ac.jp/junkan/forest/mycology2/








パンフレット