【特集:学生へのインタビュー取材09】黒潮大蛇行による海面水温変化が2011年台風12号による豪雨に与える影響

~紀伊半島大水害の教訓を、将来の防災・減災につなげるために~



森田直樹さん(共生環境学専攻,博士後期課程3年,気象・気候ダイナミクス教育研究分野,担当教員:立花義裕教授)へのインタビュー取材が行われましたので,ぜひご覧ください。







現在に至るまで

 2011年9月に起きた台風12号による紀伊半島大水害をきっかけに気象学に興味をもち、気象の学習を始めました。2021年度からはより専門的に学ぶため、三重大学大学院生物資源学研究科の博士後期課程に入学し、気象・気候ダイナミクス研究室に所属しました。
 研究では、海面水温と降水の関係に着目し、特に黒潮大蛇行時の紀伊半島周辺における局所的な海面水温の変化が、2011年台風12号による降水量にどのような影響を与えるのかをテーマに設定しました。数値シミュレーションを用いてその影響を検証し、成果を論文にまとめました。本研究は、2026年4月に米国地球物理学連合(AGU)が刊行する大気科学分野の国際学術誌『Journal of Geophysical Research: Atmospheres』に掲載されました( https://doi.org/10.1029/2025JD043310 )ので、その内容をご紹介させていただきます。



紀伊半島大水害と2011年台風12号

 2011年9月、台風12号(タラス)が紀伊半島に記録的な大雨をもたらし、「紀伊半島大水害」と呼ばれる甚大な災害が発生しました。台風の勢力自体はそれほど強くありませんでしたが、大型で動きが遅く、さらに四国に上陸するという経路(図1a)をとりました。このため、紀伊半島には長時間にわたり南東から温暖で湿潤な空気が吹き込み、大部分の地域で1,000 mm以上、一部では総降水量が2,000 mmを超える記録的な大雨となりました(図1b)。その結果、河川の氾濫や土砂災害、大規模な深層崩壊が相次ぎ、和歌山・奈良・三重の3県を中心に多数の死者・行方不明者が出たほか、住宅や道路などに甚大な被害が生じました。


図1 (a) 2011年台風12号の経路, (b)気象庁合成レーダーエコーGPVによる2011年8月30日から9月5日までの約6日間の積算降水量(mm)


黒潮大蛇行と海面水温


 黒潮大蛇行とは、黒潮が紀伊半島から東海沖にかけて南へ大きく蛇行し、本州南岸から離れて流れる現象です。流路の変化は、漁場や漁獲種、船舶の航行に影響を与えるほか、多くの暖かい海水を運んでくるため気象にも大きな影響を与えると考えられています。2011年に台風12号が発生した当時、黒潮は蛇行していませんでした(図2a)。一方、2017年8月から2025年4月にかけては、過去最長となる7年9か月にわたって大蛇行が継続しました。黒潮が大蛇行しているとき(図2b)は、大蛇行していないとき(図2c)と比べて、東海沖に正の海面水温偏差、紀伊半島沖に負の海面水温偏差が現れることが分かっています(図2d)。本研究では、これらの海面水温偏差が台風12号のような台風にどのような影響を与え、降水量やその分布がどのように変わるのかを調べました。黒潮の大蛇行に伴う海面水温偏差の影響は近年研究が始まったばかりですが、特に台風に対する影響や負の海面水温偏差に着目した研究はこれまで行われていませんでした。




図2 (a) 2011年9月の海面水温(℃)と黒潮の流路, (b) 2017年から2022年までの9月の海面水温の平均値(℃)と2022年9月の黒潮の流路, (c) 2005年から2016年までの9月の海面水温の平均値(℃) , (d) 図2bと図2cの差分(℃)


研究成果を論文に

 本研究では、2017年から2025年まで続いた黒潮大蛇行の下で、2011年の台風12号と同等の台風が襲来した場合、紀伊半島への降水量やその分布がどのように変化するのかを数値シミュレーションを用いて予測しました。一見すると、正の海面水温偏差は降水を増加させ、負の海面水温偏差は降水を減少させるため、全体としての降水量は相殺されて大きく変化しないように思われるかもしれません。しかし、数値シミュレーションの結果はその予想を大きく裏切り、紀伊半島の大部分で降水量が大幅に減少する可能性があることが明らかになりました(図3a, b ,c)。
 その主因は、紀伊半島沖の海面水温の負偏差(平年より低い状態)が台風を弱めることにありますが、東海沖の海面水温の正偏差(平年より高い状態)も風向や降雨域の移動を引き起こし、結果として降水量の減少をもたらすことが分かりました。特定の領域(図3cのエリアKP)では、総降水量が約131 mm減少する可能性が示されています。これは、局所的な海面水温の変化が台風による雨の量や降る場所を大きく変化させることを示唆する成果です。
 本研究は、台風による大雨が周辺海域の局所的な海面水温分布によって大きく左右されることを示しました。将来、同様の台風が発生した際には、その時点の黒潮の流路や海洋状態によって、紀伊半島や周辺地域の降水量や分布が変動する可能性があります。これらの成果をもとに、地域ごとの豪雨リスクの正確な把握や、より効果的な防災・減災への活用を目指せたらと考えています。


図3 (a) 再現実験における2011年8月30日から9月5日までの約6日間の積算降水量(mm), (b) 黒潮大蛇行実験における降水量 (mm), (c) 図3aと図3bの降水量の差 (mm)




今後の展望


 2011年台風12号について、さらに詳しく研究を続けたいと考えています。現在は、台風12号のたどった経路について、同時期に発生していた台風11号との相互作用の観点で、なぜ四国に上陸するような経路をとったのかを研究しております。


未来の三重大生へ

 気象学は、私たちが日常的に目にする空の様子や天気予報といった身近な話題から、研究者が高度な数式、統計解析、数値シミュレーションを駆使して挑む最先端の科学まで、非常に幅広いアプローチが可能な学問です。しかも、私たちが日々目にする実際の気象現象は、日々の予報や科学的な考察が正しかったのかどうかを、ありのままの「正解」として私たちに示してくれるという醍醐味も含んでいます。
 三重大学には気象学の専門家だけでなく、多様な学部・学科が設置されており、皆さんの知的好奇心を存分に満たしてくれる環境が整っています。ぜひ、このような恵まれた環境の中で自らの研究や学びを深く追求してほしいと思います。

 


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