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日本の農業土木学教育は2021年に三重大学において100年を迎えました。

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三重大学の農業土木遺産Civil heritage

三翠農場の遺産「三重高等農林學校農場の給水井戸」ついて
  平成28年度 土木学会推奨土木遺産に認定されました!

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 1922(大正11)年4月、三重高等農林学校は第1回の入学生を迎えるのであるが、その時点で実験農場の整備は未だ完成していなかった。
 志登茂川左岸のこの地帯は、低湿地で排水の設備も全くなく、加えて塩害が甚しくて、実験実習農場としての実質も形態も全然備えていなかった。このような現状を見兼ねて一部には、この際むしろ他の適地を探して移転した方が良いとの声も出たが、上原校長は断乎反対して、如何に土地が劣悪であろうとも、農業工学の全能を傾けてこれを改良すべきであるとして、移転論を一蹴し、敢然これが改良の方策を講ずることを決意表明された。同年5月に行われた初耕式に於いて、校長は「農場の土地改良は本校にとって緊急の最大重要事項である。教官、学生相互に協力して、この難事業を成し遂げるべきである」と訓辞を述べられている。

 土地改良事業を推進するため、校長自ら陣頭指揮をとって調査、設計委員会を設けて衆知を集めることにし、農業土木科の全教官に、農場長および作物学、林学より各1名を加えて委員に任命し、連日にわたり検討を重ね、ついに半年後に土地改良計画について意見の一致を得た。

 それによると灌漑用と、さらに塩分を除くためには相当量の淡水を継続的に必要とすることが必須の条件となった。用水取得の方法について種々検討したが、地表水では適当なものが無く、地下水によらざるを得ないという結論に達した。そこで校内、農場内の各所を探したところ、農場内中央北寄りの地点で、地下約75mの深層で、条件に合う理想的な水脈を発見し得たので、ここに待望の水源井戸を掘ることに決定した。ときに1923年、これが現存する通称「不渇の井戸」の始まりとなる。

 そのときから10年後、私は農業土木科の学生であったが、農場の土地改良に直接関係された5名の先生方から、工事完了に至るまでの詳細な説明や苦心談をそれぞれ聞いて、農場内に掘った水源の深井戸が、三重高農の前途に大きい影響を及ぼすほどの重要な施設であることを知るようになった。また2年次の1ケ年間に必修の農場実習を通じて、工事完了後の圃場の諸施設と、その機能を詳細に実地に体験して知り、水源の大井戸が、実験農場の生命を日々維持する心臓に相当するほど重要な器官であって、地下で循環する水脈を発見できたことは、本校にとって誠にこの上もない幸運であって、それは正に天佑であると教え込まれるのであった。

 大井戸の外観は直径9mの円形池のようであるが、実は地下75mの水脈と3本の管で連結されている。井戸側のコンクリート壁は、75年の風雪に耐えて、いまも健在であるが、コンクリートは総て材料を鉄板の上にのせて、人力で練ったもので、その作業の激しさは、体験した者こそ知る誠に重労働であった。
 井戸は初耕記念樹の西に隣接しているのでその高架水槽はよく目立っている。井戸の湧水量は72/時、すなわち24時間あたり1,728の真水を供給して必要量を十分に充足して余りあったという。また暗渠排水によって地下水位を低下させ、有害な塩分を取り除き、地表に灌漑し、暗渠排水の繰り返しで、水田5ヘクタールと畑10ヘクタールは、その失われていた生産機能を回復したのであった。また用排水設備とも、電動ポンプは適時自動的に作動する方式を採用した。水田の区画、農道も整備され、一部運搬用の軌道も敷かれた。畑では給水栓が適所に設けられ、大形スプリンクラーによる撒水を可能にし、また2ヘクタールの大農機械実習畑も設けられた。今にして思えば、これは日本農業の近代化を50年先取りした観があった。

 上原種美校長は、農場の土地改良が成功したのは、最悪の条件下で最善を期するため、教官、学生が一致協力して最大の努力をした結果であるとして、それは本校の校史に残る無形の精神的成果であったと評価している。

 また設計から施工まで直接担当した教官等は、工事を通じて絶好の研究材料を見つけて、実地に調査して、その得るところ極めて大きかったと評している。

 三重高農が開校して本年は75年目に相当するが、上浜地区に学部を統合して現在本学の敷地は52ヘクタール余りを有し、その発展は目ざましいものがある。農場の土地改良が成功したために、農場は以来安定して定着し、その占有空間を核にして学部用地を拡大することが可能になったのである。農場は昭和45年に現在地(高野尾)に移転したが、大いなる水資源としての「不渇の井戸」は残った。21世紀に向けて、この誠に有用なる遺産を三翠学園が受け継いで、「不渇の井戸」を大切に守り、また最大限にこれを活用することが、開拓時代の三翠の先人達に対する報恩となるであろう。

農学部 名誉教授 山家光治、三重大学50年史「ニュースレター」No. 8(1997. 11. 14 発行) より



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農業土木学講座
産学官民連携実績

(官)三重県農林水産部
   農業基盤整備課
学官連携協議会(2004年〜)


(民)水土里ネットみえ
学官連携協議会(2004年〜)


実践農業土木学(旧称:実践農業農村工学)(非常勤講師)(2004年〜)
(官)農林水産省東海農政局
(官)三重県農林水産部
(官)愛知県農林水産部
(官)三重県県土整備部
(官)津市教育委員会
(民)三重県水土里ネット
(民)愛知県水土里ネット
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(産)NTCコンサルタンツ
(産)若鈴コンサルタンツ
(産)清水建設
(産)鹿島建設


農業土木学キャリアアップ演習(旧称:農業農村工学キャリアップ演習)(非常勤講師)(2011年〜)
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(官)農林水産省東海農政局
   農村計画部・整備部
連携・協力協定(2016年〜)


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   中部支社
連携・協力協定(2016年〜)
(水資源管理・施設分野)


(産)(一社)農業土木
   事業協会
連携・協力協定(2019年〜)


(団体)(公財)三重県建設
   技術センター
建設技術研修への協力